私と目覚めないお母さん

 私には友達がいない。

 間違ったことが嫌いで許せない。

 すぐイライラして怒鳴ってしまう。

 後からあの時、どうして怒ってしまったのだろうと毎日のように後悔している。

 お母さんの為に勉強している自分が大っ嫌いだ。

 全部全部嫌いだ。


 

 私は頭が良くない。

 二年前私は、幼稚園の帰り信号が青になり道路を渡っていた。

 すると遠くからフラフラとした車が赤信号のはずの道路を進んできた。

 私は怖くて動けなくなり、その場で立ち止まって座り込んでしまった。

 そのまま歩いていたら当たらなかったはずなのに。


 お母さんは私が座り込み、繋いでいる腕が引っ張られて初めて車に気付き、何とか私を抱きその場を離れようとしたのだが、抱き上げれず車だけがどんどん近付いていた。


 ごめんと私は言われ突き飛ばされた。

 お母さんはその場で逃げきれず車にかれ、一度も目を覚ます事無く今日も眠っている。


 事故から一年の時間が経ち私は五歳になった。あの日から私は、毎日幼稚園の後に病院へ通っていた。

 お父さんは毎日病院に通う私に、たまには遊んできても良いんだよと言った。

 けど私のせいでお母さんは起きなくなったから、起きるまで毎日ずっとそばに居ると言うとお父さんは、微妙な顔をした。

 私はこの顔を覚えている。


 事故にあった日、眠り続けるお母さんの横で泣く私へ、怪我が無くて良かったと言った時と同じ顔をしていた。

 お父さんは私の事も大事だけど、お母さんも同じくらい大事なのだ。

 私だって同じような顔をするだろう。

 いや私なら泣きならが攻めていただろう。

 だからお父さんは何も悪くない。

 だけど私の脳裏に焼き付いてしまった。


 私は塾に通っている。

 病院から帰り、塾の宿題をする時間は無いので病院の机で勉強をする。

 おかげでナースさんと仲良くなり、おやつをくれたり勉強を教えてくれたり、多分私を口実にサボっていたのだろう。


 ある日塾のテストで百点をとった。

 たまたまだ。いつもは塾の先生に赤ペンでバッテンばかりつけられる。

 けどその時のテストは、分からない問題が全て記号問題になっていて何となく書いたら百点だったのだ。


 病院に着きナースさんに百点の答案を見せて自慢すると、褒めてくれお母さんに報告しようと一緒に病室に行った。

 ナースさんがお母さんの手の中に答案渡し、私はたまたまだった事を隠し自慢した。

 空いてる片方の手を頭に乗せ、撫でてもらうふりをした。

 するとお母さんは今までピクリともしなかったのに、少しだけだがニコリと笑い腕が動いた気がした。


 お母さんは起きたんだと思ってすごく喜んだ。

 けれどそれは良くある事らしく、目覚めてはくれなかった。

 ただ私は笑ってくれて撫でて貰えただけで嬉しかった。


 その日から私は沢山勉強をした。

 毎日病院に行く事は辞め、塾の無い日だけにし塾の日は一番早くに行き一番遅くに帰るのが当たり前になった。

 最初は百点なんて取れるわけも無かった。

 けれど頑張って勉強を続け、点数が伸びてきて毎回百点を取れるようになった。

 お母さんに百点を取ってまた褒めて貰う為に。

 けれどお母さんは、最初の一度を除き褒めてくれ無かった。

 何となく、百点を取り続けたら早く起きてくれる気がした。


 さらに一年が経ち、事故から二年後どんどんと勉強は難しくなって、百点を取るのが難しくなってきた。

 その時から私は自分を追い込んでいった。


 私が馬鹿だから。

 私がもっと頑張れないから。

 私が悪い。


 私は全てに百点を取ろうと頑張り始めた。

 すると自分の行動に悪い所は沢山あった。

 五分前集合や早寝早起き等、全てを百点にしようとすると周りの出来てない人を見つけるようになった。

 我慢できなかった。

 間違っている人を見ると、イライラして注意しないと気が済まなかった。


 一人一人注意していると、園長先生が特進クラスをおすすめしてくれた。

 その場所は人が少なく、私のように本気で勉強する人しかいなかった。

 賢い人達は、規則正しく変な事をしなかったから過ごしやすく注意する回数は減った。


 しばらくして、特進クラスに私の大っ嫌いな奴が新しく入ってきた。

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