男の子と確定演出

 待ちに待ったダンジョン遠足当日。

 今日は美雪先生や友達(一応二人)とお話しながら、沢山歩いて楽しい一日になりそうです!

 昨日は楽しみすぎて、夜からソワソワして全く眠れなく寝不足です!

 

 「お兄ちゃん早く行こう!」

 「待ってくれよ!まだ集合時間の二時間前じゃないか!三十分前に出れば間に合うから。あと少し寝かせてくれ」


 お兄ちゃんはまだベットで毛布にくるまっています。

 僕は思いっきり毛布を引っ張り、無理やりに起こして昨晩準備したダンジョン探索用の動きやすい服に着替えさせます。


 「何が楽しみなんだよ。ダンジョンに行って散歩するだけだろ。そんなの幼稚園で出来るだろ」

 「え?」


 テンションが上がっており特に何も考えていなかった僕は、ふとなぜ楽しみにしていたのだろうかと頭を働せたが全く出てこなかった。

 何が興奮させていたのだろう。

 心が冷めてしまった。


 「お兄ちゃん家を出る一時間前に起こすから」


 ベットに座っているお兄ちゃんを寝転がし、毛布をかけて二度寝させる。


 そして全ての準備を終えている僕もベットに潜り込み、アラームをかけて寝る事にした。

 昨晩と違い秒単位で眠りにつく事ができ、心地よい睡眠が取れた。

 

 

 長時間当たっていた日光で目を覚まし、清々しい朝を迎えられた。


 「沢山寝た気がするけどアラームがなる前に起きれたな」


 後で鳴らないようにアラームを消す為タブレットを開くと、通知欄に五分おきに設定しているスヌーズ機能が十回鳴った形跡が見える。

 目を擦りながら、左上端の小さな時刻表示を見ると九時五十三分と集合時間の七分前を表す数字があった。


 「ん・・・遅刻だ!?」


 僕は飛び起きお兄ちゃんのベットに向かうと、人型に盛り上がっている毛布があった。


 「お兄ちゃん!!遅刻だ!!」


 助走をつけた綺麗なドロップキックをベットの膨らみにかまし強制起床させ、中身の住人にスマホを押し付けて時間を確認させる。


 「あー終わった」


 お兄ちゃんは再度ベットに寝転がり、三度寝を始めようとしたので胸ぐらを掴み、頭を揺らし覚醒させると事の重大さを理解してくれた。


 「やばい!急げ!」


 二人は大慌てで動き出し、奇跡的に二時間前に着替えを終わらせ出発準備万端で眠っていたので、マジックバックを捕まえベットからそのまま玄関に向かう途中、机の上にある食パンを少女漫画のように口へ差し込み家を出た。


 刻々と近付く集合時間に全力で抗い、走る僕達は近くの学校の時計でこのままでは必ず間に合わない事を知る。


 「ハルト!絶対間に合わないよ!」

 「こんな時こそ魔力を使おう!」


 僕は全身を魔力で覆い一気にペースアップした。それを見たお兄ちゃんも真似をして、ボルトも腰を抜かす短距離の世界記録の二倍程のスピードでダンジョンまで駆け抜ける。


 「これならギリギリ間に合う!」

 「危なかった!」

 「アン!」


 聞き慣れている声がして後ろを見ると、僕たちのよく知っている赤ちゃん犬が並走していた。


 「フェスト来ちゃったの!?」

 「アン!」

 「今日ダンジョン攻略じゃないんだけど!どうしようお兄ちゃん!」

 「連れてくしかないだろ!」

 

 戻って家に置いていくのは現実的ではなく、連れていくしか選択肢がないので諦めて連れていく事にした。


 しばらくは走ると止まっているバスへ長蛇の列が出来ており、道を塞いで通れなくなっていた。


 「お兄ちゃんジャンプ!」


 僕は前に出て足に魔力を集め、バスへ乗り込む客の列をジャンプし飛び越える所を見せつける。

 それを見て二人は魔力を使って同じようにジャンプし無事突破できた。


 二人が飛べた事を確認し前を見ると、脇道から走って出てくる中学生の男の子と思いっきりぶつかってしまった。


 「ごめんね大丈夫?」


 僕を置いてダンジョンへ走る二人を睨みつけ、男の子の身を確認した。


 手首はぶつかった衝撃で地面に付き、赤く腫れ上がっていた。

 回復魔法で本人が痛みに気付く前に治療し、ついでに全身も治療しておいた。

 もし古傷があっても、治るほどの回復魔法をかけたから大丈夫だろう。


 「ああ!最後のバスが!」


 男の子が手を伸ばした先には出発してしまったバスがあり、乗り遅れてしまったようだった。


 「本当にごめんね」


 僕は男の子のバックから飛び出して、周りに沢山落ちている服やタオルをかき集めて、高速で畳み収納して渡した。

 男の子を見ると絶望した顔をしており、大事な事に遅刻が決定してしまったのだろうか。


 「僕の修学旅行が」


 最悪の事をやらかしてしまった!

 学生生活で一、二争うビッグイベントの邪魔をしてしまうとは。

 これは将来恨まれるやもしれない。


 「本当にごめんね」


 僕は謝るしか出来なくて、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。


 「大丈夫!近道を使っても走るから。十五分くらい遅れるかもしれないけど、遅刻した人が乗る先生との後発組に乗るから心配しないで。それより君も急いでたけど大丈夫なの?」


 男の子が付けていた腕時計を瞬時に拝借し、見てみると到着時刻まで残り三分しか無かった。


 「あと三分」

 「ギリギリじゃんか!急いで急いで!」


 男の子は遅刻確定なのに僕の事を心配して立たせてくれた。

 すっごい良い子。


 「ありがとう!僕の名前は線崎春斗、何か助けがいる時は言って!」

 「こちらこそ。僕の名前は戸川結。その時はお願いするよ!」


 僕達は約束をして手を振り、反対方向に別れ走り出した。




 だがその約束は絶対に叶えることが出来なくなる事はまだ知らない。

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