ゴブリンメイジと漫才

 「なかなか面白かったな」


 久しぶりに手応えのある敵と戦えて、テンション上がった僕はスキップしながらルンルンでドロップ品を回収し始める。


 胸の辺りにある、魔石ギリギリの所に解体ナイフを振り降ろす。そして空いた穴に指を入れるとあら不思議。ポロッと魔石が取れるじゃありませんか。

 体内から取り出して下層と比べてみると、強敵らしい大きなサイズだった。

 お兄ちゃんは、戦闘したばかりなのに元気にごぶりんの死体の胸へ、解体ナイフを差し込む僕を見て少し引いていた。

 

 「めっちゃおっきい!!だいたい一つ一万円かなー!」

 「そんなにするのか!?」


 驚いて大きな声を出し、お兄ちゃんは僕の戦闘を見ていた場所から駆け寄り魔石を奪い取った。


 「そりゃそれくらいするよ!あいつら一体で中級冒険者以上に強かったし。なんなら安いくらいよ」


 残りのゴブリンの魔石と杖を回収しほくほく顔で収納魔法に放り込む。

 今の戦闘でだいたい三十万から四十万の稼ぎがあった。

 ホブゴブリンの魔石が約五万円。その他ゴブリンズ六体の魔石が約一万円。杖は両方ともだいたい十万円から十五万円と高価格となった。


 杖は魔法使いには必須のアイテムで、杖のスペックで魔法の威力がかなり変わってくる。

 その為、いつの時代でも値段の上下が激しい。

 今回はかなりの良品で安くても十万の価値があるのだが、傷をつけたりスペックの低い杖だと五千円も超えてこないゴミへと早変わりする事も多々ある。

 

 代わりに高品質の杖は膨大な金額となる。  

 前世で見た世界樹の枝で作られた過去最高級だった杖は、今世の価値で計算すると余裕で一億円を超える値段だ。

 ここまでの物まで来ると、オークションで全員が全財産をはたいてでも買おうとするのだ。

 その為オークション会場で、二番目に金持ちの全財産を超えた金額が落札価格となる。


 その場その場で大きく価格が変動するので、この杖は一概にいくらだと言えないのだ。

 ちなみにその世界樹の枝で作られた杖は前世の僕が使っており、収納魔法の中に仕舞ってある。


 僕はそこそこ高級な杖が、お兄ちゃんが倒して奪った杖と合わせて、三本も手に入り精算する時が楽しみになっていた。

 ふわふわと夢見心地歩いていると、前方を見ていない為誰かにぶつかってしまう。


 「gobu!?(すみません!?)」

 「あっ!?すみません」


 相手と同時に謝罪して頭を下げ、顔を上げるとそこには真緑で顔色の悪い杖を持った生き物がおり僕と見つめ合っていた。


 「ゴブリンやん!?」

 「gobugobu!?(人間やん!?)」

 

 僕とゴブリンと脳が回っておらず、何故か一緒に道を譲り合っていた。


 「ゴブリンと何してるの?」


 お兄ちゃんは、ゴブリンメイジとコントをする謎な状況にツッコミを入れ、やっと状況を理解した。


 「金がぶつかってきた」

 「gobu!!(殺される!!)」


 先に動き出したのはゴブリンメイジで、来た道を一直線に戻って行く。僕はその姿を見届け遅れて動き出せた。

 

 「ちょっ!待てよ!」


 全力でゴブリンメイジの逃走した道へ走り、逃げ切ったと安心していた所を見つける事ができた。


 「えい!」


 立ち止まっている所を、プスっと丁度良い高さにある首へショートソードを差し込み、魔石と杖を無事回収してお兄ちゃんとフェストの居る場所に戻った。


 「ちゃんころ稼いできたでー」


 陽気なおっさんスタイルで帰ると、お兄ちゃんも元気そうにノリに合わせてくれた。


 「一万円ゲット!」

 「いや、杖あるから十万円超えるよ?」

 「ん?」


 杖の値段を説明しておらず、価値に気付いていなかったので全ての値段を説明してあげた。

 するとその日からお兄ちゃんは、ダンジョンについて詳しく調べるようになり、攻略に積極的になった。

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