最強の兄とゴブリンメイジ

 僕達は魔法陣で中層に到着し、下層とは違う雰囲気のダンジョンを堪能していた。

 そして僕とフェストは何故か周りの警備が始まっていた。


 「本当にちょっと待って!カメラの設定あと少しだから。本当にごめん」


 お兄ちゃんは家でカメラの設定をしておらず、中層に来て撮影しようとした時に気付き急ピッチで設定をしていたのだ。


 「ちゃんとしてよ」

 「本当にごめん。帰る時におやつ買うから許して」


 いつものおやつ作戦で、僕にごまをするお兄ちゃん。

 だが今日の僕は一味違った。


 「お腹いっぱいだから要らない」

 「ハルトが要らないだと!?」

 「ふざけてないでもう行くよ」


 僕がおやつを断った事がそんなにおかしいのだろうか?

 お兄ちゃんは信じられない物を見ているかのようだった。


 カメラの設定が終わり、自動で浮遊し初め僕達を追尾している所を確認し、元々疑ってはいなかったが多少の感動を覚えた。

 追尾するカメラを見ていると、ペットのような愛着が湧いた僕は、魔法と衝撃無効そして自動回復の付与を行い、常に新品の状態で壊れる事の無いカメラが誕生した。


 「じゃあ試し撮りに行くか!」


 お兄ちゃんは数時間前まで価値が高すぎて手が震え、一度返却した剣をアップ代わりにブンブンと振り回していた。

 適当に振り回しているのだが、その姿に隙は無く今の時点で、僕を抜いたこの世界で最強なのはお兄ちゃんだと分かった。


 たった一回のダンジョン探索で、剣術をマスターしてしまうこの兄はチートすぎる。羨ましい限りだ。


 しばらく上層への階段を探して歩き回っていると、そこそこ良さげな杖を持ったゴブリンメイジと出くわした。


 「お兄ちゃん!ゴブリンが出たから新しい剣の切れ味試してみて」


 僕はゴブリンが杖を持っており、ただ拾った杖を持っているだけかもしれないが、恐らく魔法を使う事を説明せず、お兄ちゃんに試し斬りを進めた。


 一般的にゴブリンメイジは、中層の中盤から終盤に出るとされている。

 このダンジョンはゆっくりと強さが上がる、初心者向けの優しいダンジョンである。

 強いゴブリンメイジがここまで早く出る事は無いので、魔法を覚えたてのゴブリンである事が分かり、お兄ちゃんの魔法の踏み台になってもらう作戦だ。


 「よし!お兄ちゃん頑張っちゃうぞ!」


 ニヤニヤと緊張感の無かったお兄ちゃんだが、ゴブリンメイジと向き合うと雰囲気がガラリと変わって静かになり、冒険者の顔付きになった。


 お兄ちゃんの足を踏み込むジャリっと音がした。その瞬間駆け出し真っ直ぐにゴブリンメイジに向かう。

 それに対してゴブリンメイジは、ゴブリン語を巧みに扱い高速詠唱とまでいかないが、中級冒険者としてなら優秀と呼ばれるレベルのスピードで詠唱を行い、更に基礎魔法の詠唱の短いファイアーボール選択して撃ち込んできた。


 明らかに中層に居るはずの無い、賢く戦闘慣れしているゴブリンメイジだがお兄ちゃは予想しており、速さの乗ったファイアーボールを慌てる事無く半分に裁断し、そのままの勢いで首を落とした。


 「こんなものか……ってあっっつ!?」


 お兄ちゃんは討伐後クルーキメていだが、高熱のファイアーボールをそのまま切った事で、熱くなっている剣を放り投げ、手を振っていた。

 僕は瞬時に反応し、岩に向かって落ちていく剣をキャッチし、新品の剣の一命を取り留める事が出来た。


 「あっぶな!?お兄ちゃん!剣投げないでよ!扱い雑すぎ!」

 「だって熱かったんだもん!ハルトはよく持ってるな!」

 

 僕は魔力で手を覆い熱を無効化している為熱くはないのだが、これは魔法をそのまま切ると成る現象である。


 水魔法や風魔法なら良いのだが雷魔法や火魔法等、素材を何かしら通す属性だと通電したり、手が火傷したりする。

 その対策として魔力で剣を覆う事で、切れ味が良くなり耐久力が上昇し熱や電気を通さなくなるので武器使いにとって常識の技術である。


 お兄ちゃんはたまたま僕の真似をして、微弱ながら魔力を放出しまとってはいないのだが、似た状態になっていた為火傷せず済んだのだが、今の剣は充分火傷する温度に達していた。


 「魔法を切る時は危ないし、折れるかもしれないから魔力を纏わないとダメだよ」

 「ハルトはどこでその情報知ったんだよ」

 「えっと……動画で?」

 「なぜ疑問形?」

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