自動追尾カメラと転移魔法陣
「フェスト!今からダンジョン行くからな!」
お土産のおかげで少し出発が遅くなってしまったが、お兄ちゃんのついでに貰ったマジックバック機能の無いウエストポーチを腰にセットし出発準備を終わらせた。
「お兄ちゃん準備終わった?」
「まだ終わってないからちょっと待って!バックに何か色々入っててさ確認してる。ハルトの分もあるぞ」
お兄ちゃんの部屋に入ると、机の上には投げナイフやショートソードにポーション等、ダンジョン探索に必要な物が二セットずつ準備されていた。
「すごいね。社長頑張りすぎだよ」
ポーションは、この前売却したので分かるが最低買取一万円以上するものが十本入っており、そこそこ高品質の投げナイフも十本。ショートソードも両手で使う事を想定してか二本。解体ナイフ一本に丈夫な袋が数枚、携帯食料にライトやスコップ等が二セットずつ揃っていた。
「これは頑張って恩返ししないと!」
「そーだねー」
お兄ちゃんは社長に思考を誘導されてる気しかしないけれど、本人がそれで良いのなら気にしないでおこう。
「おい嘘だろ!?これ伝説のカメラじゃないか!?」
マジックバックにはダンジョンアイテムと一緒にカメラが入っており、そのカメラは自動追尾カメラという商品だ。
カメラマンの要らないカメラで、自分で好きなように動かせない代わりに、使用者を浮遊して追尾し自動撮影してくれる、人手の足りない動画配信者や危険の多い災害地やダンジョン等で使われる新しい種類のカメラだ。
「お兄ちゃんの今持ってるカメラって結構良い奴?自動追尾カメラなのは分かるけど人気モデルとか?」
「これは凄いぞ。なんたって二百万超なのに高スペック過ぎて即日完売した、高画質高耐久の超高級カメラなんだ。カメラ好きなら人生で一度は触ってみたい凄い商品で、こいつだけでカメラの歴史を何十年も進めた、生きる伝説のようなカメラだ。カメラの歴史が…」
お兄ちゃんの大興奮オタク語りで分かると思うが、素晴らしいカメラらしくネットで調べてみると値段が高い事くらいしかマイナス評価が無く、スペックから見たら安いとまで書かれていた。
二百万円が安いってなんだろう。
魔道素材と同じおかしな金銭感覚になってしまう。
「それで社長も撮ってくれって事だね。じゃあカメラと武器を使いに行こう」
「そうだね!今すぐカメラ使いに行こう!」
いつの間にか試し斬りでは無く、試し撮りになっているがお兄ちゃんのモチベーションが伸びきっているので、この扱い方が正解なのだろう。
これから何かお願い事する時は、カメラ関係の物をプレゼントすれば何でもやってくれると理解した。
「フェスト遅れてごめんな」
「早くしろ。動き足りない」
可愛い見た目からドスの効いた声がテレパシーで送られてきたので、直ぐに家から出てダンジョンまで走り込んだ。
珍しくお兄ちゃんもカメラパワーで、僕達のスピードに追い着きなんなら追い抜こうとまでしていた。
不機嫌なフェストに攻撃されそうになりながら、無事ダンジョンに到着した僕達は受付では無く、横の入口へ直接向かった。
「数日ぶりですね。お元気でしたか?」
やる事が無く暇そうな受付のお姉さんが、誰かに声をかけており周りには誰も居ないので、僕達にかけた言葉だった。
お兄ちゃんとフェストはダンジョンへ潜る事しか考えておらず、誰も相手しないので仕方なく僕が相手した。
「お久しぶりです。元気ですよー。なのでダンジョンにまた潜れます」
「まずは武器のレンタルですよね」
受付のお姉さんがレンタル武器の場所に連れていこうとしたが、試し斬りの為に来ているので断わった。
「僕達武器あるので大丈夫です」
「でも持ってないよね?」
僕はマジックバックの中から取り出すふりをして、前回使った白銀の剣では無く前世でもメインで使っていた切れ味に特化したショートソードを取り出した。
受付のお姉さんは入るはずの無い、バックから剣を取り出した謎の現象に驚いていた。
「びっくりした!マジックなら早く言ってよ」
「マジックじゃないけど、このバックは覚えておいた方が良いですよ」
わざとらしく会社のロゴを見せてやり、宣伝しといてやった。一応お兄ちゃんに剣を作ってくれたお礼だ。
「じゃあ僕達行くから。またね」
僕達は中層以上に潜ると、一度行ったことのある階層まで転移出来る一層の入口横にある魔法陣に乗った。
「その魔法陣は中層以上に行ったことないと使えないから君達には使えないよ」
僕は受付のお姉さんが何か言っていたが、転移を始めていて何も聞こえなかったので一応手を振っておいた。
その後中層以上しか行けない魔法陣で、二人とテイムされたモンスターが飛ばされたと問題になり、捜索隊が出動する事態になっている事ハルト達は知らない。
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