魔導鉄と一千万

 「魔導鉄だな。保有魔力三十パーセントって所か」

 「流石ハルト君にはなんでお見通しだな」


 魔導鉄とは屋外では作られることは無く、ダンジョン内のみでしか手に入らない珍しい素材だ。

 とても珍しい代物で、なかなか見つからず中層以上の階層でないと作られる事は無い、運だけでは手に入れられなく入手難易度の高いのだ。

 見つからない理由が、魔力を先天的に保有して成長した素材に魔導という名前がつけられるのだが、先天的に魔力を持つ素材はほとんど無く、更に魔力を見る事や感じる事が出来る者だけしか魔導素材を見分けることが出来ず、何重もの条件を突破した限られた者しか手に入れられないのだ。


 更に魔導素材は、素材と持っている魔力量によって魔法の魔力効率が良くなる性質を持っている。後から魔力を入れる事は出来ないのでここにも運が絡んでくる。


 最高の武器を作るには魔力保有率までも厳選しないといけないのだ。


 今回の場合は素材は鉄で、保有魔力が三十パーセントになる。魔力効率だとだいたい三パーセント程マイナスにする事が出来る。

 三パーセントと聞くと、かなり少なく聞こえるが長く見ると必ず欲しいと思える物だ。


 「最高の剣だな」

 「自慢の一本です」

 「魔導素材は扱いにくかっただろう。普通の剣ですら厳しいスケジュールだったのに無理をさせたな」

 「いえ、私は何もしていません。やってくれたのは腕の良い鍛冶師と魔法使い達です」


 魔導素材はかなり扱いにくい。

 熱を加えてもなかなか柔らかくならず、普通の素材以上の高い熱を加えないといけない為、火と風の魔法を複合させ高温にするのが一般的な鍛冶のやり方だ。

 おかげで普通の剣を作るよりも、数倍のコストがかかってしまう依頼者と鍛冶師泣かせの素材と言われている。


 「よく分からないけど凄い剣なんだね」

 「そうだね。多分買ったら一千万円は超えてくるかな?」

 

 値段を聞きお兄ちゃんは、腕をプルプルと震わせまともに剣が握れなくなり、マジックバックに収納してしまった。


 「そんな高級なもの受け取れません!」


 お兄ちゃんは剣をマジックバックと一緒に社長へ返却した。

 社長はその返されたマジックバックを、一度受け取り再度お兄ちゃんに渡した。


 「君は将来大きくなると思っている。君がこのマジックバックや剣を使ってくれたら、何億何十億という利益が生まれるだろう。だから気にしなくていいんだ。もしそれでも申し訳ないと思うのならば、もっと強くなってダンジョンを攻略して欲しい」

 「分かりました。絶対この恩は忘れません」


 お兄ちゃんは、涙目で感謝を伝えていた。

 ただお兄ちゃんは勝手に剣を押し付けられ、職業を強制的に冒険者にされ、進路変更出来なくなっている事には気付いていなかった。


 「魔導素材はこれから価値がどんどん上がるからな。使いすぎるなよ」

 「理解しております。私のスキルが教えてくれているので」


 社長はしばらく会社の事や、僕達の事をどう思っているのか暑く語って帰宅した。

 途中僕にお土産を渡すの忘れていたと、紙袋を渡された。

 渡す時に、スイーツだけじゃなくて美味しい物ならなんでも良いんだよなと言われたので、甘くない物なのだろう。


 僕が甘い物ばかり食べているのは、前世では甘味が多くなかった反動のようなものなので、普通に唐揚げやラーメン等も甘い物と同じくらい好きなので、美味しければ全く問題は無い。


 お土産の中身を確認してみると、瓶詰めが入っており内容物は鮭といくらのルイベ漬けだった。

 スプーンで一口だけすくって食べてみたがとても美味しく、鮭といくらの相性が抜群でご飯をかきこみたくなった。

 結局僕とお兄ちゃんは、ダンジョンに試し斬りしに行く前に、どんぶりのご飯を二杯と鮭といくらのルイベ漬けを一瓶丸々食べてしまった。

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