間接キスとチョコケーキ

 自由時間が終わり職員室でお菓子を食べていると、大量の小テスト持った美雪先生がドンと音を立てて置いた。


 「本当に重たいわ」

 「お疲れ様」

 「朝は何してたの?」

 「レアキャラについて話してた」

 

 教室でリアムと話した内容について美雪先生に教えると、ちょっと不機嫌になっていた。


 「へぇー。ハルト君はあんな感じの子が好きなんだ」

 「そういう訳じゃないけど。美雪先生も可愛いよ」

 「冗談よ。でもありがとう」


 美雪先生はクスリと笑いって僕を弄り、気にしていない様子で大人の余裕が感じられた。


 「その子は一応特進クラスの子だけどね、体が弱いから一度も教室に入った事は無いの。いつも職員室に顔を出して書類を貰うくらいで、ほとんど幼稚園に顔を出せないの。歳はハルト君の一歳下で大人しくて良い子よ。ハルト君が来るまでは、一番賢い子供だったのよ」


 才色兼備な子供らしく同じ特進クラスの仲間と知りますます会ってみたくなった。

 もし僕の知ってい子供ならば、会話の成り立つ友達ができるかもしれないと希望を抱いた。


 「早く良くなると良いね」

 「そうね。早く良くなって欲しいわ。冷蔵庫にお茶取りに行くけど何かいる?」

 「じゃあ今日のケーキを所望します」

 「はーい」

 

 美雪先生にケーキをお願いし、運ばれた今日のおやつのチョコケーキを食べていると、いつもとは違う強めの扉を開ける音が聞こえた。


 「美雪先生!この問題分からないわ!」

 

 職員室に入ってそうそう、大きく元気な声で美雪先生を呼び僕達の前にやってきた。

 そして僕を見ると、条件反射のように酷い言葉を浴びせてくる。


 「なんであんたなんかがここでケーキ食べてるのよ」

 「追い出したのはそっちだろ」

 「別に特進クラスから追い出しただけで、職員室に居ろなんて言ってないわよ!」

 「どこに居てもいいだろ」

 「良くないわよ!さっさと同学年の教室に行きなさい!」

 「ケーキ食べてるから無理」

 「私は先生に分からない問題を聞きに来たの!邪魔しないで!」

 「じゃあ僕はケーキを食べてるから邪魔しないで」


 僕達はバチバチに言い合いしていると、美雪先生からの止めが入った

 二回り以上年下の子供に少し大人げなかったかもしれない。

 いや知らず知らずの間に、体の年齢に精神が引き寄せられてるのだろうか?


 「二人とも静かにして!夏希ちゃんはハルト君に突っかからないの。ハルト君も優しく対応してあげて」


 僕は正直に言うとどうでもいいのだが、突っかかって来るから仕方ないと子供っぽいことを考え、チョコケーキを食べ始めた。


 「今手が離せないから夏希ちょっと待っててね」


 美雪先生は夏希ちゃんに一言かけて連絡帳に文章の続きを描き始めた。


 「どうせ分からないのなんて比例とか証明の所だろ」

 「どうせって何よ!ってなんで分かったわけ!あ!盗み見てたんだ。きっしょ!」


 こいつうぜー。本当に一回ぶん殴って良いかな?この見た目なら喧嘩で済むよな。


 一度冷静になりいい歳のおっさんが、幼稚園生に向かって本気になり殴っている想像をして、ありえないなと思い落ち着いた。


 「そりゃ分かるよ。最近特進クラスの答え合わせしてるのハルト君だからね」

 「はぁ?この特別扱いが?」

 

 やっぱり殴ろうかな。一度黙らせといた方が良い気がする。

 まぁ美雪先生がかばってくれそうだから何もしないけど。


 「そうよ。最近の修正凄く分かりやすくない?」

 「まぁなんか分かりやすいわね」

 「それ私じゃなくてハルト君が書いてるからなのよ。よく見たら字が違うでしょ」


 美雪先生が書いた連絡帳には、とめはねはらいがしっかりされており僕の字は、スピードを重視しているので綺麗で読みやすいのだが、とめが流れていた。

 ただそれ以上に連絡帳の内容が、友達が欲しいや皆と喋りたい等と重たい内容になっていた。


 「そうだったんだ」

 「ちなみにハルト君はこの幼稚園のどの先生よりも頭良いと思うよ」


 周りの先生を夏希ちゃんが見渡すと、皆が首を縦に振っていた。


 「何か言う事あるんじゃない?」


 夏希ちゃんはシュンした態度で、僕の方を向いて頭を下げた。


 「ごめんなさい。あなたのことお金で特進クラスに入った、悪い人だと思っていたの。だからもうあんな事言わないわ」


 この子はただ元気で正義感の強い女の子のようだ。間違いを認めしっかりと反省している気持ちが伝わったのでこれ以上責めない事にした。

 僕は大人だからね。悪い事をしたと認めたら許してるやるのだ。


 「顔を上げて」


 夏希ちゃんに顔を上げさせると、僕は口の中にチョコケーキをねじ込んでやった。


 「僕は元からなんとも思ってないから許してあげる。ただその代りに僕は友達が少ないからね。友達になってよ」


 夏希ちゃんはチョコケーキが口の中に入っているため声が出ないが、こくりと頷き了承してくれた。


 「ありがとう」


 僕は対等に喋れる人としか仲良くなれる気がしないからね。こんな子を逃す訳には行かないんだよ。

 

 僕は残ったチョコケーキに手をつけ完食をすると、夏希ちゃんは顔を赤くしてアワアワとし始めた。


 「かんせつきちゅ」


 そう言い放ち小テストを落として職員室から出て行ってしまった。

 中身を確認するとやはり比例と反比例の問題だった。


 「やっぱりここの問題か」


 赤ペンで解き方の修正を入れて、次のチョコケーキに手をつけた。


 「ハルト君。私にもチョコケーキ一口ちょうだい」


 美雪先生からのおねだりがあったので皿を渡してあげようとすると、口を開けたのでアーンしてあげた。


 「美味しい。ありがとう」

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