私が一人だったら貰ってくれる?

 「ハルト君今日はありがとね」


 アナウンス終了後皆の元に戻ると美雪先生は僕に話しかけてきた。


 「さぁ?なんの事?ドッキリ上手くいって良かったね」


 僕は知らないふりをして二人で教室から退出した。


 「実はね、本当に助けてくれると思ってなかったの。あんな大人数の前で何ができるんだろうって。まさかあんなに堂々とやるなんてね。凄く驚かされたよ」


 美雪先生は申し訳なそうな表情を浮かべ、本心を話してくれた。


 「迫真の演技だったでしょ。上手くいって良かった。本番前にちゃんと約束したしからね」

 「また助けられちゃったね」

 「いつも一緒に居てくれるからね。そのお返しだよ」

 「でもさ、私の方がいつも助けられてるよ」


 一方的に対価を貰った事により、美雪先生は自責の念に駆られていた。

 ならば報酬でも貰ってあげようじゃないか。


 「じゃあ美味しかったからまたケーキ作ってよ。それでチャラね」

 「それじゃあ足りないよ」

 「だったら何個でも作って」


 美雪は涙を浮かべながら、クシャッとした笑顔を見せ頷いた。

 

 「ダメね。歳のせいか涙脆もろくて」

 「いや美雪先生若いでしょ!」

 「私は二十歳よ。ハルト君から見たらおばさんでしょ」

 「そんな事ないよ。普通にお姉ちゃんって感じだよ。付き合ってって言われたら普通に付き合うよ」


 最後に冗談を混じえて笑わせようとしたが、笑われず真面目な反応をされてしまった。


 「じゃあハルト君が大きくなって、私が一人だったら貰ってくれる?」


 え!?まさかのプロポーズですか?

 そこまでドッキリ作戦が聞いたのか!?

 でも自分を差し出すまでして欲しくは無いな。もっと自分を大切にして欲しいかな。

 まぁ将来は、他の誰かと結婚すると思っているのだろ。


 「その時は迎えに行きますよ」

 「ありがとう」

 「そういえばハルト君はいつピアノの練習してたの?」

 「あーあれね本番前に美雪先生の横で聞いてた時あったでしょ。あの時に見て覚えたの」

 「もうハルト君には驚かないわ」


 なんだか、呆れられているような気がしたのだが何故だ?

 

 「ハルト!見つけたぞ!」


 後ろから名前を呼ばれ振り返ってみると家族が全員集合していた。

 両親達はお世話になっている礼と、発表会の謝罪に来たようでまるっきり保護者と先生という図が出来上がっていた。


 しばらくして僕の生活態度と交友関係を聞かれ、話が伸び面談のようになっていた。


 「もういいから!みんな帰って!」


 僕は家族の背中を押しやり何とか帰ってもらった。


 「優しそうな家族ね」

 「良い家族ですよ」

 「羨ましいわ」


 僕達は手を繋い教室に戻ると、リアムや先生達からの質問責めに合い、落ち着くまでにかなりの時間がかかった。

 ものすごく疲れた。目立つのは程々にしよう。


 その後はトラブル無く歌の発表会は終了した。

 僕達の学年が一番評判が良く、僕の目立った行動もあるが歌の質もかなり良かったそうだ。

 特に特典など無いけれど、トップバッターで金賞を貰った。


 リアムは発表会が終わった後泣いて喜んでいた。

 真面目なリアムと僕とで掛けた思いの差がかなりあると感じてしまった。

 なんかごめん。

 まぁあいつなら許してくれるだろう。

 ただ貸一と言われそうだから、絶対に言わないがな。


 全学年で少し片付けをしたあと解散となった。

 僕達家族は幼稚園から少し買い物をしてから帰宅し、美味しいご飯とデザートでパーティを開いた。

 パーティ中はお兄ちゃんのカメラで撮った僕の学年の発表がずっと流れていた。

 良い感じにピアノが傾いており、手元が見えず完全犯罪となった。


 途中やるならちゃんとしなさいと小言を言われたが、楽しいパーティーだった。

 

 結局今日一番良かった出来事は、美雪先生と距離が縮まった事かな。

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