美雪先生の面談

 「ハルト君ちょっと待ってね」


 美雪先生は少し離れた所から僕を止めて駆けつけ、冷蔵庫を開け一番下の白い箱を取り出して開封した。


 「実は、いつも手伝ってくれるからお返しにケーキ作ってきたの」


 箱を開くと一人で食べると絶対太りそうなサイズの、いちごのショートケーキがホールで入っていた。

 いつもの三時のおやつのケーキに比べると不格好だが、美味しそうなケーキだった。そして美雪先生が作ったという事が一番大事だった。


 「これ本当に美雪先生が作ったの?」


 僕の為にショートケーキを作った理由が分からなかった。

 いつも手伝ってくれたと言うが、幼稚園児とその先生だ。この関係でそこまでするだろうか?

 嬉しいのだが、嬉しすぎて裏があるのではと考えてしまう。


 「ちょっと失敗しちゃったけど、捨てるのもったいないから持ってきたの。今度は絶対成功させるからまた食べてね!」

 「どうして僕に?」

 「さっきも言ったけどいつも手伝ってくれるからって言うのと、本当は発表会終わってからあげようと思ってたんだけど、さっき私の為に頑張ってくれたし今あげる方が喜ぶかなって」

 「凄く嬉しい!全部食べる。何個でも食べる!一生作って!」


 僕はもう色々考えるのをやめて、美雪先生の思いをそのまま受け取り、ショートケーキを食べる事に専念することにした。

 棚にあるスプーンを取り出し、いちごの乗っている部分をくり抜いて贅沢な一口を頬張った。


 「すっごい美味しい!美雪先生美味しいよ!」


 僕は夢中になって立ったまま、何度も口の中にケーキを運びました。


 「あなたの為になら何回でも作ってあげるわよハルト」


 結局僕はショートケーキを一度で全部食べてしまい、後から後悔することになった。


 「発表会終わってからゆっくり食べようと思っていたのに!」

 「また今度作ってあげるから、ガッカリしないの。やくそく!」

 「やくそくだよ!」


 僕は涙ながらに二人で指を絡ませ約束をした。

 次はゆっくり味わって食べよう。

 今まで食べた中で真ん中の上くらの味だったが、全ての甘味の中で一番に美味しいと感じた。


 「ハルト君口の周りにクリーム沢山着いてるよ」


 目の前にある誰かの先生の机の上にある鏡を拝借し見てみると、サンタクロースのような白髭になっていた。


 「水道で洗いましょうか」


 美雪先生に手を引かれ水道へ行き、水で口元を洗われてハンカチで拭かれ全てされるがままになっていた。

 将来美雪先生がダメな男に尽くすような気がしてならなかった。


 僕はさっぱりして教室に帰ると、見覚えのある男性の姿が職員室にあった。

 

 「あれ?お兄ちゃん?」

 「ハルトやっと見つけたよ!ハルトが居るはずの教室に行っても居ないって言われてさ」


 まぁまさか弟が毎日職員室に入り浸っているなんて普通に思わないよね。


 「なんの用事?」

 「そうだった。今日は早めに帰るから準備しといてだって」

 「何かあるの?」

 「さぁ?ご飯でも食べに行くんじゃない?」


 終わったら美雪先生と一緒に、あと片付けしながらイチャイチャする予定だったのに。

 本日の一大イベントが、無くなってしまったようだ。

 

 「分かったって言っといて」

 「はいはい。後で言っとく。あとなんだけどさハルト、美雪先生って人何処にいるかな?」


 どういう事かな?

 兄よ敵になろうというか!


 「園長先生と話してたんだけど、美雪先生といつも一緒にいますって言われてさ。兄として挨拶しておかないとって」


 おお!お兄ちゃんは敵ではなく味方だったのか!少し早いが結婚の親族への挨拶という所だな。

 お兄ちゃんは、足を折り僕の耳元で小さい声でささやいた。


 「若い先生と聞いたけどお気に入りなんだろ。そこそこの年の差でもお兄ちゃんは応援するぞ!」


 お兄ちゃん!あんたは最高のお兄ちゃんだよ!


 「私が美雪です。いつもハルト君にはお世話になっております」

 「いえいえこちらこそよく助かっていると聞きますし、よろしくお願いします」


 何故か美雪先生が、お世話になっていると挨拶している。

 そして何故かお兄ちゃんも受け入れて受け側の対応している。


 「二人とも逆だよ。僕が美雪先生にお世話になってるの。しかも結婚の挨拶みたいになってるし」


 美雪先生はキョトンと頭に?を浮かべて僕と目と目が合って見つめ合い、恥ずかしくなって二人で目を逸らした。


 「でも私はハルト君にいつも手伝ってもらって、助かってるよ。結婚は......ね」


 なんだよそれ!可愛すぎだよ!結婚考えてくれているのか!?


 「ハルトと一緒にいてくれてると園長先生に聞きました。ありがとうございます。そろそろ時間なんで後日またお礼させて貰います。ハルトをこれからもよろしくお願いします」


 お兄ちゃんは時間が無いようで時計を見て短くお礼を言い、二人はペコペコかしこまっていた。

 お兄ちゃんは再び耳元で囁いて出て行ってしまった。

 「なかなか良さそうな人じゃないか。お兄ちゃんあの人なら良いと思うぞ。長居したら悪いからそろそろ行くね」



 なんて完璧な兄なんだ。こりゃモテる訳だ。鈍感じゃなければ、なお良かったのに。


 お兄ちゃんが職員室に来た理由に、一つだけ気になった事があったので、行ってしまう前に聞いておいた。


 「お兄ちゃんなんで職員室来てたの?僕を探すなら職員室じゃなくて良かったのに」

 「あぁ、動画だよ。ハルトを動画であげていいか聞きに来たんだ。許可貰えたからこれでハルトのイケボを皆に届けられるよ」


 お兄ちゃんはどこまで行ってもお兄ちゃんのようだ。

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