発表会と緊張
「ハルト!練習するから並べー」
現在は歌の発表会当日の本番前、ラストの練習になる。
いつも一人で職員室に居るため、ほとんど教室に居ない僕にも友達が出来た。それが彼だ。
「おっけー。えっとー名前ダウトだったけ?」
「違うわ!花田
「え?」
この子は入園日に僕を睨んでいた男の子だ。
発表会練習の時話しかけられ、ありがとう君のおかげであの子と仲良くなれたとお礼を言われ、一緒に僕とも仲良くなりとの事で最近はよく話したりする。
初めての彼の名前を聞いた時、聞き間違いだと思い何度か名前を聞いてしまったが、調べてみてみたら意外と今の時代は普通らしく驚かされた。
昔の名前から見たら個性的な名前だが、新しい名前だと思って僕は気に入っている。
新時代ですね。
「並びましたよーっと。さっさと準備しろよ指揮者」
リアムは指揮棒をケースから緊張している為カチャカチャと震える手で取り出す。
「下手くそが緊張したらもっと下手になるぞー」
「ハルトお前今日厳しくないか!?」
緊張していたのはリアムだけでは無く、同学年全員で悪いムードが広がっていた。
だがリアムを弄った事で笑いが起き、皆からの緊張が溶け話し声が聞こえるようになった。
「ハルトみたいに能天気が良かったよ。緊張してバカみたいだ。皆最後の練習やるから静かに!」
リアムは皆を仕切りまとめあげるリーダー気質の人間だ。
最初に会った時横から睨んでいたのを見て、人見知りなタイプかと思ったのだが、好きな人にはなかなか話しかけられないタイプで、僕が羨ましいのとどうやって話しかければ良いのだろうと考えていたらしい。
「美雪先生伴奏お願いします」
リアムは伴奏の美雪先生にお願いをした。
その美雪先生は僕を眺めて嬉しそうにニコニコしていた。
美雪先生に手を振ると手を振り返してくれた。僕しか見えていないようだ。可愛い!
美雪先生は僕に友達が出来た事を自分のように喜んでくれて、リアムに仲良くしてあげてねとお願いする程だった。
美雪先生はいつから僕のお母さんになったのだろうか?どちらかと言うと奥さんになって欲しいのだが。
無視をされたリアムは再度美雪先生にお願いすると、やっと気付いたのか僕達に謝って指揮に合わせて伴奏を始めた。
本番前の最後の練習は無事何事も無く終わり、僕達は本番もこのまま行けば大丈夫だろう。
「じゃあ皆一時解散!本番一時間前にこの教室に集まってください」
美雪先生の号令で教室に残る者や水道に行く者等などバラバラに別れた。
「美雪先生緊張してる?ピアノいつもは完璧なのに何回かズレたでしょ」
美雪先生は手を擦り合わせ、手を温めるように息を吹きかける。
「やっぱりハルト君にはバレちゃうか。今回みたいな大人数の前でピアノ引くの久しぶりで、ちょっと緊張しちゃって先生なのにダメね」
「そんな事ないよ。誰だって大人数の前だと緊張するよ。二人で練習した時みたいに考えてピアノを弾けば大丈夫だよ。それに保険もあるし」
僕は美雪先生の手を繋ぐと、いつもに近い
「ありがとう。ハルト君は優しいね。言われた通り頑張ってみる!」
「じゃあ横に座ってるから僕の為にピアノ一回引いてみてよ」
「しょうがないなー!一回だけだよ」
美雪先生はピアノを弾いてみると、いつも通りの完璧に出来ていた。
「これで本番も大丈夫だね」
「ハルト君こっちに来て」
美雪先生に近寄るとギュッ抱きしめられた。
心臓は早鐘を突くようで僕に伝わってきた。そして僕は優しく抱き締め返した。
「ありがとう」
「いえいえ。美雪先生の為ですから」
「そんなこと言っても何も出ないからね!よし!じゃあ職員室に戻ってお菓子食べようか!」
美雪先生は僕を抱っこして、そのまま職員室に戻った。
抵抗したのだが降ろす気は無いらしく、大人しく抱っこされた。
柔らかい物が僕に当たっていた事は誰にも内緒だ。
職員室に入り美雪先生の席に置いてある、足の長い椅子に下ろされ僕の為に机の上にストックしてあるチョコレートを、口の中に放り込んだ。
美雪先生は僕達の会話を他の先生に話して自慢していた。
自慢できることなのか?
「相変わらず大人ねー」
「本当大人顔負けの大人よ」
僕は椅子を降りて冷蔵庫を開けると、今日はお昼ご飯の時間が無いためシェフが居らずケーキが一つも入っていなかった。
「ケーキ無いじゃん!」
「あんな所は子供よねー」
「本当に子供よ」
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