両手でちょちょいと2

 「まぁまぁ良かったな」


 ボブの動画は、正直に言ってかなりいい線いってると思った。

 ダンジョンが始まって歴史が浅いのに、かなりの階層まで進み長く蓄えられような知識があった。ボブの努力は、凄まじいものがあるのだろう。


 「ハルト君終わった?話してたのにずっと聞いてなかったでしょ!」


 僕は美雪先生に動画中何度か声をかけられていたようで、集中していてずっと適当に相槌を打っていたらしい。


 「ごめんなさい。集中しすぎて気付かなかった」

 「凄い集中力ね。気にしないで。大した用事じゃないし。ありがとうね。皆の答え合わせしてくれて」

 「タダで机を使いっ放しっていうのが、嫌でしただけだから気にしないで。これからも使うと思うからよろしくお願いします」


 僕は真面目ぶり頭を下げると、戸惑いながらもお辞儀を返された。


 「こちらこそよろしくお願いします。でも答え合わせしなくていいからね」

 「はーい」


 僕は一応返事だけしておいた。


 「あとねこれからの行事の話なんだけど」


 美雪先生は、小さい文字でびっしり書かれたカレンダーを取り出し机に広げた。


 「今週の金曜日にテストがあります。そしていつもなら休みだけど来週の土曜日は、歌の発表会があるの。そして再来週は遠足があります。入園してすぐなのに忙しいけど一緒に頑張ろうね」


 なんというタイミングで入園したんだ!もう少し後からにすれば楽に生活できたのに!

 まぁ美雪先生に早く会えて、おやつ食べ放題ならいいか


 「ちなみにハルト君の学年の遠足はダンジョン体験です!なのでステータスカードが必要です。スピーディーに動く為、ダンジョンに事前に行ってステータスカードを作って来てね」


 ステータスカードとは免許証やマイナンバーカードとは別に使える、顔付き身分証の役割をするものだ。

 ここ数年で発行されるようになり、ダンジョンに入る時は必ず必要になる物になっている。

 このステータスカードは、他の身分証とは違い素晴らしい効果がある。


 絶対に無くすことがないのだ。

 どちらかと言うと無くす事も書き換えることも出来ないのだが。


 ステータスカードは名前やランクなどをデータとして体内で保存し、持ち歩かなくても身分証を出さないといけない場合に(ステータス)と言うと実体化する事するのだ。


 この画期的な身分証は将来的に大きく展開されるらしく、免許証やマイナンバーカードも統合するように政策されるらしい。


 前世では個人証明する物はギルドにしか無く、ステータスを見るだけの物だったので貴族や商人以外も、身分を証明する方法があるのは素晴らしいと思った。


 話は戻るが先程の美雪先生の説明に一つ問題があった。


 「美雪先生。一つ問題があるんだけど」

 「どうしたの?」

 「僕歌った事無い」

 「そうなの!?ヤッタ!」


 あれ?美雪先生ヤッタ!って言わなかった?

 僕は前世から含めて一度も歌ったことない。前世は曲自体そもそもが無く歌えず、今世は何となく歌わなかった。

 まずなかなか歌おう!って機会がないのだ。

 なのでこれは良い経験かもしれない。


 「じゃあ私が特別レッスンしてあげるから頑張ろう!」

 「ほんとに!?」

 「ほんと!」


 やったぞ!これでレッスン中にどさくさに紛れて、色々な事が出来るのではないだろうか!?

 これから楽しくなるぞ!


 「よろしくお願いします!」


 僕は今までとは違う、感情のこもった百パーセントのお辞儀を深々とする。


 「承りました!」


 美雪先生は敬礼をピシッとしてふざけて笑った。

 かわゆい!


 「ハルト君答え合わせ全部終わらせちゃったし、今から歌の練習しにいく?」

 「今から!?」

 「嫌ならいいけど」

 「行きます!行かせてもらいます!」

 「よろしい!じゃあレッツゴー!」

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