両手でちょちょいと

 「モンブラン美味しー!」


 牛乳を片手にケーキを食べていると、美雪先生の机に重ねられてる紙束を見つけた。

 

 「小テストか。それにしてもすごい量だな」


 答え合わせのされていない、小さなテストは国語辞典のような厚みがあった。

 一枚一枚見ていると、横に居た先生が説明してくれた。


 「それ昨日のだよ。その量を毎日解くなんて大変だよね。一番大変なのは全て答え合わせする美雪先生の方だけどね。若いのに大変だよ」

 「これを毎日一人で答え合わせを?」

 「そうだよ。特進クラスは人数が少なくて発表会が無いから仕事が安定してるけど、その分毎日答え合わせはきついよね」


 美雪先生が辞典並の厚さの答え合わせを何時間も掛けてやっていると思うと、なんでか涙が出そうになった。

 空き時間には掃除をし、生徒に教えているとなると過労気味なのは見て取れる。


 食べていたケーキを口に押し込み、机の上に置いてあった赤ペン二本をを両手に取り、一つずつでは無く二つずつ答え合わせを始める。そしてしっかりと訂正まで行っていく。


 「さっきもやったんだけどなー」


 結局三十分かけて答え合わせを終わらせ、元の場所に置いた。


 「疲れたー。糖分糖分!」


 僕は三十分両手で集中した為、かなりの疲労を感じ軽食コーナーに置いてある角砂糖を一掴みして全てを口の中に入れ噛み砕いた。



 「あの量の答え合わせを三十分で終わらすのも凄いけど、角砂糖を一気食いはヤバい」

 「それな。でももっとヤバいのは両手で答えを見ず訂正の解き方書き込んでたのもヤバい。しかも模範解答より分かりやすいの」

 「ありゃバケモノだな」



 僕は二つ掴み目の角砂糖を口に入れて、多少の糖分への欲求が収まりお盆にケーキとお菓子を乗せて机に戻り、第二回お菓子パーティーを開始した。


 「海外のダンジョンでも見ようかな」


 適当に動画アプリを操作し、アメリカでのダンジョン攻略動画を再生した。

 動画主の頭は坊主でムキムキな男性だ。名前がボブそうな見た目だ。

 脳味噌まで筋肉なタイプかと思って見ていたがかなり賢く、ダンジョンの内容をよく覚えしっかりと視聴者に分かりやすく解説していた。

 見た目だけで判断するのは良くないという典型的なタイプだった。


 「その動画見てて分かるの?」


 後ろを振り向くと美雪先生が、そこそこの厚さの小テストを持って尋ねていた。

 全て解いたと言うには早すぎるので、宿題も混ざっているのであろう。


 「分かるよ。このダンジョンはスライム系統のモンスターが多くて、浅い階層は初心者におすすめですだって」

 「すごーい!先生全然わからなかった。私は読んだり書いたりはできるけど、ネイティブな英語はあんまり分からないから凄いな!私に英語教えて!」


 なんだと!まさかの僕が教師側だと!?あんな事やこんな事も教えてあげようかな。


 「いつかタイミングがあったらいいですよ」

 「教えてくれないやつじゃん!」


 美雪先生は口を膨らませて、不機嫌なふりをした後ニコッと笑った。


 かわいい


 僕は動画に戻りその横で机の持ち主は、小休憩を一度挟んだ。


 「よし!頑張って答え合わせしますか!」


 グビっと茶を飲み袖をまくり気合いを入れた美雪先生は、机の上に置いてある一仕事終わった小テストを取り出した。


 「あれ?誰か答え合わせしてくれました?」


 数枚を取り出して確認し、周りを見渡し手伝ってくれた人を探していた。


 「全部終わってる!?」


 美雪先生は全てを確認した後、返却するだけの小テストに驚き地面に落としそうになった所をギリギリキャッチ成功した。


 「この字見たばかりの気が?もしかしてハルトくんがしたの?」


 僕は動画主が中階層ボスの討伐中だったので、目を離すことなく返事をした。


 「さっき全部やっといたよ」


 美雪先生は周りの先生に目をやると、全員が首を縦に振っていた。


 「いつも四時間近く掛けてやってるのにどうやって!?」

 「両手でちゃちゃっとね」


 周りの先生はずっと首を縦に振っていた。


 「えー」

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