おやつ祭りだー!

 「先生三分遅刻ですよ!ちゃんとしてください!」


 美雪先生は戸惑う様子無く、女の子に目線を合わせて対応した。


 「ごめんね夏希ちゃん。次は間に合うようにするから」

 「そうしてください」


 夏希ちゃんと呼ばれる少女は態度が悪く、ピリピリとした雰囲気を出していた。

 けれど他の子供たちは微動だにせず、無視をして机に向かい鉛筆を動かしていた。


 「いつもこんな感じなの?」

 「そうねー。今日もいつもと一緒ね」


 この状況が日常なようで、逆におかしな所は僕が居ることの方のようだ。


 「その子誰!」


 夏希ちゃんは指を真っ直ぐ指し、すごい目力で睨みつけてきた。


 「線崎春斗です」


 僕は急な事で戸惑い咄嗟とっさに名前を言った。

 そんな状況を見て美雪先生は、教卓の前に移動し夏希ちゃんを座らせ自己紹介の場を整えてくれた。


 「皆一度手を止めて。今日からこの特進クラスのお友達になった線崎春斗君です。仲良くしてね」

 「線崎春斗です。友達を作りに来ました。よろしくお願いします」


 誰も僕の事を見る事無く机に向かっていたが、コピーアンドペーストされた自己紹介をすると、全員が顔を上げて睨みつけ敵を見るかのようだった。


 「あんた舐めてんの!」


 またも夏希ちゃんは大きな声を出して椅子から立ち上がり、僕の目の前までやってくる。


 「このクラスはあんたみたいなのが来る所じゃないの。皆私立の偏差値が高い小学校に行く為に一日中頑張ってるの。それなのに何が友達を作りに来ましたよ!こっちはあんたと友達になる気なんて誰も無いの!皆一人なの!分かったらさっさと出て行って!」


 ものすごい剣幕で怒号を浴びせられ、他の子供達に比べてこのクラスがずっと机にかじりついている異質な理由が良く分かった。


 「そうなんだ。美雪先生他の教室に移れる?」


 僕は美雪先生に僕には合っていない教室から移動できるか聞いてみた。

 絶対このクラスで寝転がり、タブレット使っていたら壊される気しかしない。居心地悪すぎる。


 「ごめんね。このクラスに決まっちゃって移動出来ないの。大人な話をすると、このクラスだけは私立の幼稚園になってて、入試の成績を張り出したりして人を集めているの。だからハルト君にはこのクラスに在籍するように言われてるの」


 美雪先生の説明で、幼稚園での僕の対応に理解した。

 僕にはこの特進クラスの広告塔の役割をして欲しいという事か。

 僕が全国共通テストをしたら必ず満点だろう。その結果を発表すれば、素晴らしい実績を持つこの幼稚園に沢山の入園志望者が来るという考えなようだ。


 「だそうだよ。よろしくね夏希ちゃん」


 僕は手を差し出すと、夏希ちゃんに顔をフルスイングで引っ叩かれた。


 「気安く触れようとしないで!あんたが特別扱いされてるのは良く分かったわ!絶対認めてやらないから!」


 僕は叩かれた顔を手でさする。

 少し魔力を多く持っているよう、全身に魔力をまとっていた為少し痛かった。


 「ハルト君大丈夫!?痛かった?氷持って来るからね」


 美雪先生はもみじ柄の着いた顔を心配して、撫でてくれた。

 天使がここに居るよ。心が洗われる。

 そこまで痛くないので、教室から出て氷を取りに行こうとする美雪先生の腕を捕まえた。


 「大丈夫だから。じゃあ職員室で大人しくしておこうかな」

 「ごめんね。こんな目に遭わせちゃって」

 「寂しいから時々見に来てね」

 「分かったわ。沢山職員室へ見に戻るから」

 

 その後美雪先生は、僕を職員室まで連れて行ってくれた。歩いている間、大丈夫と言っても何度もごめんねと謝ってくれた。


 職員室に到着すると、美雪先生は園長先生と話をし一日美雪先生の席に座ってタブレットで動画を見ることになった。


 「後で戻ってくるから静かにしてるんだぞ!」


 美雪先生と離れる前に、人差し指でおでこをツンツンされた。

 あざとかわゆい!


 職員室で暇をしていると、園長先生が小分けになっている一つ二百円位しそうなバームクーヘンを僕に渡し横に座ってきた。


 「初日から洗礼を浴びてしまったようじゃの。私達のお願いのせいで申し訳ない」

 「別にいいですよ。こちらだって特進クラスに通っていると箔が付きますから。ただそれだけですけどね」


 バームクーヘンを食べながら、少し意地悪をする言い方で許してあげた。


 「その事なんじゃがの、ハルト君のリターンが合っていないと思っての。一番後ろの棚が見えるかの?」


 後ろを振り向いて見ると確かに棚があり、物置のように色々な書類や本、おもちゃが乗っていた。


 「その中心に職員用軽食のお菓子と飲み物があるじゃろ。お母さんに聞いたが甘いお菓子が好きらしいの?好きなだけ食べても飲んでも良いぞ。更にじゃ、今度から少し良いものに変更しようと思っておる。どおじゃ?幼稚園に来てくれる気になったかの?」


 僕は椅子を降りて軽食コーナーに行ってみると、そこにはどこのメーカーか分からない安っぽい物では無く、スーパーでよく見る有名なお菓子からちょっと手が出しにくいお値段のプレミア系統のお菓子が置いてあり、ジュースはコーラやオレンジジュースに牛乳と、至せり尽くせりだった。


 「ちなみに冷蔵庫にある、三時のおやつで出るデザートも好きなだけ食べても良いぞ」


 冷蔵庫の中には、今日のおやつのモンブランが大量に置いてあった。


 「これ全部食べていいの?」

 「もちろんいいぞ。無くなっても裏にまだあるから追加するがどうじゃ?」

 「来る!毎日来る!」


 幼稚園で来るだけで過剰なリターンが貰える事になり、僕は毎日通園する理由がもう一つ増えた。

 今日から毎日おやつ祭りだー!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る