過労と愛されお兄ちゃん
「夜ご飯何がいい?」
美雪先生とのデートを楽しみ、薄暗い帰り道をお母さんとスーパーへ歩いていた。
「豚のしょうが焼きで!」
「じゃあ豚のしょうが焼きね。あとはサラダとお味噌汁ね」
ササッと買い物が終わり、雑談をしているとスマホに電話がかかってくる。
「あら!?お母さんどうしたんですか?」
おばあちゃんからの電話のようだ。
おばあちゃんはいつも、大量にご飯を作ってくれる。
それにおはぎやおしるこなどの、日頃食べ機会の少ない和風なデザートを作ってくれるのでたまにお母さんに内緒で、散歩ついでに行ったりする。
おばあちゃん大好き!
「お兄ちゃんが倒れた!?」
ガシャりと音を立て買い物袋と、バックが地面に落ち中身が流れ出ていく。
「分かりました。直ぐに向かいます!」
お母さんは、バックに気付かず病院に向かって走って行ってしまった。
僕は魔法で瞬時に回収しお母さんを追いかけ、お兄ちゃんがいる病院に走る。
病室に入る前にお医者様が、僕達に説明をしてくれた。
過労だそうだ。本当ならばもっと早く倒れていてもおかしくない環境だったらしい。
会社の人が証言してくれたらしく、お兄ちゃんは僕が回復していたので、いつも他の人より多く仕事をしていたらしい。更には納期が間に合わなくなることも毎日で、先輩後輩の仕事まで手伝っていたそうだ。
最近はなかなか帰れず泊まりが多く、回復魔法を使うことが出来なかった為倒れてしまったのだ。
会社は現在ニュースになり、大問題になっているらしい。
「どうしてこんな姿に」
病室に入るとお母さんは、直ぐにお兄ちゃんに駆け寄り涙を流していた。
雫がポタリとお兄ちゃんの顔を伝い、枕が吸収し大きく跡が広がっていた。
僕は荷物を下ろし、お兄ちゃんの手を握って魔法で回復させる。
体力は回復できても精神までは治せない。
僕が回復魔法を使っていなければ、頑張りすぎなかったかもしれない。
僕がお兄ちゃんの倒れる原因を作ったのかもしない。
大好きなお兄ちゃんを、こんな目に合わせなるなんて許せない。
それ同時に僕は罪悪感を感じていた。
しばらくするとお兄ちゃんは目を覚ました。
「やばい!いつの間にか寝てた!締切もうすぐなのに急いで終わらさないと!」
お兄ちゃんはまだ病院という事に気付いておらず、ベットを抜け出し走ろうとしていた。
けれど足が動かず、地面に倒れ込んでしまう。
お母さんは倒れたお兄ちゃんに近寄り、地面にペタンと落ちるように座り抱きしめた。
「もういいの!貴方は会社で倒れて病院に搬送されたの。もう仕事しなくていいの!」
お兄ちゃんは涙を流すお母さんを見て、自分の状況を理解し泣きだした。
「疲れたよ!もう会社行きたくないよ!」
会社への思いを話し、お兄ちゃんはお母さんの胸の中で眠ってしまった。
僕とお父さんでベットに寝かした。そこから一度も起きることはなかった。
「しばらくはそっとしておこう。会社の事も口に出さないように」
お父さんは、あまり怒ったりしない大らかな人だ。
そんなお父さんの初めて怒っている姿を見た。静かに怒っていた。
よく見ないと分からないが、拳が強く握られ何もしていないのに筋肉質な腕は、血管が浮き出ていた。
「そろそろ帰ろうか。面会の時間が終わる」
長い時間居たようでいつの間にか、二十時近くなっていた。
暗い夜道を皆で帰った。
二回目の夜道が、こんなタイミングで来るなんて思ってもいなかった。
重たい空気が流れ帰り道では、誰も喋ることは無かった。
おばあちゃんの家に立ち寄り、預かってもらっていた妹を連れて帰り、家に着いたのは二十一時を超えていた。
お父さんがふとテレビをつけると、お兄ちゃんの会社のニュースが取り上げられていた。直ぐにテレビの電源を消し、静かな空間が広がる。
家に到着し皆、椅子から一度も動いていなかった。
僕は買い物袋の中身を冷蔵庫に仕舞い、春雨入りの少し濃いめの味噌汁とおにぎりを作り、食べさせた。
最初はあまり食が進んでいなかったが、なんだかんだエネルギーを使ったので完食してくれた。
「お兄ちゃんを元気付けるのに、二人がそんなのじゃダメだよ」
二人は少し不自然な顔だが、いつも通り状態に戻ってくれた。
まだ全快にはならないだろうが、僕が支えてあげればいいんだ。
僕は妹やフェストのご飯を食べさせ、空気が暗くまともに説明出来ずにいたおばあちゃん達に電話で説明しようと、お母さんのスマホを取り出す。
すると着信履歴には大量に電話が入っており、その時間は幼稚園の中を見て回っていた時間だった。
お母さんは、幼稚園の時スマホの電源を落とす所を確認している。
こんな所でも....僕のせいだと感じた。
おばあちゃん電話で説明を受け、命に別状は無いと分かり安心していたが、精神面の事で心配していた。
ちゃんと家族に愛されてるよ。お兄ちゃん。
明日お父さんは仕事を休んで、妹も一緒に病室に行くことになった。
長くかかるだろうが、お兄ちゃんの心の傷を取り除いていこうと話した。
僕はいつかやり返しをすることに決めた。
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