不可能と救援

 アンデット達は、地面から這い出て僕達を攻撃しようと襲ってきます。

 数え切れない量が出てくるので、どんどんと重なり覆い被さるように僕達に向かってきます。

 そしてその途中、アンデットのむき出しの骨に筋肉が付き初め皮を貼りモンスターだった元の姿に戻っていきます。

 そんな姿を見て、あのモンスター達は本当にアンデットなのだと実感しました。


 正直に言うと死んだと思いました。

 今攻撃してくるアンデット全てが強化されており、ハイオークやハイウルフと進化している上級個体も多くいます。


 力不足だと思っていましたが、戦略を練り少しずつ戦力を削っていけば、なんとかなると思っていました。


 実際に相手の全てを目にすると、足が震え体が全く動きませんでした。

 久しく味わっていなかった感覚です。

 前世で最強と呼ばれ自負しており、自分を過大評価していたのでしょうか。

 どうして勝てると思ったのか、全く分かりません。

 それ程の圧倒的物量に個の力。全てにおいて完敗です。

 

 そうしているうちにアンデットは確実に迫って来ます。

 下を見ると子フェンリルも同じように、震えて動けなくなっていました。

 何も出来ない僕は子フェンリルを抱きしめ、一緒に死を受け入れることにしました。

 この選択肢しか、僕はとることが出来ませんでした。

 アンデットの体で光が遮られ、何も見えなくなっていきます。

 短い間だったけど楽しかったよ。みんな。


 「ごめんね」

 

 アンデット達は僕達にとどめを刺そうとそれぞれ武器を振りかぶります。

 刻々とカウントダウンがされ、ギリギリまで死が押し寄せます。

 より一層子フェンリルの抱きしめる力が強まりました。


 「諦めるのはまだだよ!」


 優しい男性の声が聞こえ、一瞬白い光が僕達を照らします。そしてその後ろで空高く炎が舞い上がりました。


 その時誰かにぎゅっと抱きしめられ、温もりを感じます。

 抱きしめる相手に力を抜き体を任せると、大きな衝撃が起こります。

 そして瞬時に視界が動き、気付いた時にはアンデット達が居なくなっていました。


 「ギリギリ間に合ったな」


 誰かの暖かな胸の中から下ろされ、僕と子フェンリルは助けた本人の姿を見ました。

 そこには先程殺されそうになった、黒い男性が笑いなが手を伸ばしてきました。


 「大丈夫かお前達!」


 頭を乱雑に撫で回され、首がぐわんぐわんになり折れるくらいに振り回されました。

 ですが撫でているときの笑い顔に悪意は無く、清々しくありました。


 「パパ!やられたんじゃないの?」


 子フェンリルは、尻尾が取れそうな程振り回し胸の中に飛び込んでいきました。


 「心配かけたな。アンデットになったふりをして様子を探っていたんだ。おかげでギリギリになっちまった。ごめんな」


 父フェンリルは、本当はアンデットなっていなかったようで母フェンリルと戦闘を離れ、様子を探り作戦を立てていたらしい。


 「今はママがアンデット達を倒してるから大丈夫だ。クソガキ以外に強い奴はいなかったから多少は持つだろうけど、如何いかんせんあの量だ。いつやられるか分からない。それにママと俺の体には時間がもう無い。だから出来るだけ素早く殲滅する」


 父フェンリルは母フェンリルは、体の限界が本当に近いらしくもうすぐアンデットになってしまうとの事です。

 二人がアンデットになるまでが、少年を倒す本当のデットラインです。


 「作戦は俺達家族が前衛暴れるから、君が後衛として危なくなったらフォローして欲しい。そして大丈夫そうな時魔法でガンガン削ってくれ」


 僕は父フェンリルの作戦を聞き了承しました

 そして剣をしまい、代わりに杖を手元に装備します。

 

 「準備良さそうだな」


 そうゆうと父フェンリルは、子フェンリルの首を猫のように持ちました。そして僕の事を脇に挟みます。


 「舌噛むなよ!」


 またも視界が目まぐるしく移り変わり、吐きそうになりながら何とか耐えました。

 日頃浮遊魔法などで飛ぶことはありますが、自分で飛ぶのと掴まれて飛ぶのとは全く違います。

 そして大変な事に今回の到着地点はまさかの空中でした。


 「行ってこい!」


 父フェンリルの豪快なスイングで、僕は母フェンリルの後ろに調べたらマッハあるんじゃねというレベルのスピードで打ち込まれます。


 「インフェルノ」


 地面に到着する前にほとんど全ての魔力を使い 、今使える最上級の魔法で母フェンリルの上空からアンデットを押し返すように打ち込みました。

 そのおかげで進化していない低級や中級のアンデットは消滅し、上級にはある程度のダメージが入りました。


 攻撃している間に地面がどんどんと近くなり衝突するほんの少し前、残っている魔力を使い浮遊魔法でギリギリのところで耐え切ります。

 

 僕は無事着陸し、収納魔法の中から魔石を取り出して破壊し魔力を全快させます。


 その間にフェンリル家族は集合し、素早い動きとコンビネーションで着実に攻撃し数を減らしていきます。

 そして上位種も全て倒し、ほとんどアンデットは残っていませんでした。


 進化したのもあるでしょうが、本当にこの場に僕はいるのでしょうか。フェンリル家族の顔には全く疲れが見えません。


 「また来るぞ」


 父フェンリルは一言僕にかけ、少年の方に目をやりました。


 「じゃあ次は耐えられるかな?」


 今度はドラゴンやオークキング等の、一体で街を破壊できる災害級のアンデットを呼び出しました。


 「まじかよ」

 「セカンドバトル行ってみよう!」

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