羅刹とリブデッド

 「そんな綺麗な顔で出てきちゃって、びびった癖に!実は心臓バクバクなんじゃないの?」


 僕はできるだけ沢山のミスを誘うため、わざと煽ります。

 汚くても守る為ならば、なんでもやってやります。


 「どうゆう事?」


 子フェンリルは、僕の近くに戻り首を傾げています。


 「あれで全力なら弱すぎるからね。フェンリルの力を奪ってあの程度なら、あそこまでのモンスターを操れない。だから、複製体か何かなんだろうなって事。結構な魔力を使って作られてたし、魂は本物だったからかなりの本体もダメージがあるはずだよ」


 僕は右手に持つ元愛刀に目をやります。

 前世の時の体に合わせて作ってもらっていたので、三歳児が扱うにはかなり長いです。

 ビジュアル的には、親戚の家にある模造刀を持った子供です。


 使いずらそうに見えますが、この剣にはアンデット系統に強い力が付与されているので変える気はありません。

 更この剣は凄くかっこいいのです。


 この剣は、特殊な素材で作られており刀身が鋼色ではなく降り積もった雪の様に白いのだ。

 かっこいいので今回のように相性の良い相手の場合や、通常時もよく使っていました。


 ですが使い始めてからしばらく時間が経ち、この剣以上の一刀に出会ってしまい倉庫番になりました。

 二番手扱いになり、サブや相手の手数が多く二刀流で対応しないといけない場合くらいしか使ってやれませんでした。


 今世ではメインで使っていた剣が使えないので、しばらくはこの剣に戻りそうです。


 「しばらくよろしくな」


 少年は僕の剣の凄さに感づき反応しました。


 「その剣かなりやばい気がするよ。滅多にお目にかかれない代物だね。あと少し遅れていたらかなり厳しい戦いになっていたよ」

 「かなり本気でやったんだけどな。ちゃんと受けてくれればよかったのに」


 正直な所、一撃で仕留めるつもりでした。ですがなんと無く仕留めることは出来ないと分かっており、出来たらラッキーくらいに考えていたので精神的ダメージはあまりありません。


 「いやいやそんなの受けれないよ。完全に魂を斬られたら、そのまま修復する前に天に召されちゃうよ。その剣から聖属性の魔力がビンビンに伝わってくるもん」

 「次からは聖なる炎と聖属性の攻撃を気にしながら戦うことだな」


 僕は剣を肩に乗せ、ガラの悪い立ち姿から抜刀の構えに変更します。



 力を抜き息をしているかのように自然に。

 流れるような動作で一瞬の思考を許さず、何も感じさせない。攻撃をされてると情報を与えない。

 あとはただ血が流れていると同様に、体に一閃が入ることが当たり前と錯覚させる一振を与える。


 「羅刹」


 その瞬間その場に剣を構えた剣士は、姿を消し少年の背後で剣を振り切っていた。


 「ズラされたか」


 少年の体の傷は光り、ほぼ斬られていたが薄皮一枚程繋がっていた。

 そしてその部分からものすごいスピードで繋がっていく。

 修復後、目の前にある水の壁が形を留めることが出来なくなり、流れ落ちていった。


 「危なかった。あと少し魔法が遅れていたら本当に死んでいたよ。この短い時間で二回も殺されかけるなんて思ってもいなかったよ」


 少年は何も無かったかのように笑い、嬉しそうだった。


 「君の魂を殺してアンデットにしたら僕はどうなっちゃうんだろうね。最強の剣士が二人いる事になるのかな。魔王様も大喜びだよ!君なら直ぐに勝ち残り、進化するとおもう!どうかな、僕の仲間にならないかい?」

 「アンデットになれって事だろ。誰がなるかよ。やるなら殺してみやがれ」

 「そうか。じゃあそうさせてもらうよ」


 少年はあっ!と思いついたかのような動きを見せ、僕に質問をしました。


 「殺す前に、さっきの技どう言ったものなんだい?全く何も出来なかったよ」


 ケラケラと笑い、失敗した僕をバカにしてきます。めちゃくちゃイラッとしました。


 「これは、剣の極地に辿り着いたものだけが扱える究極の奥義、羅刹だ。相手に何も感じさせず、気付いた時には死を渡されているっていう技なんだけど。まぁ分かってるけど、なんで動けた?」


 大きくため息を吐き、一応の確認をしてみました。


 「そりゃ僕が天才だからと言いたいけど、ほとんど何も出来なかったからね。真面目に答えてあげる。君は足りない体の力を身体強化で補ったでしょ。僕は色んな技術も奪ってるから、魔力の流れが見えたりとか色々できるんだよ。今まで出会った奴全てと比べても、君以上の技術を持つ奴は誰も居ないよ」


 だよなー

 この技は相手に気付かせないことが大事なのに、ゆっくり剣を向けられたら誰でも分かってしまいます。


 脳の情報処理までの時間に剣を振るう為、ある程度は魔力ではなく筋力やレベルで補わないといけません。


 身体強化を使わないのは、魔力に敏感な魔術関係の相手にも使うためです。

 ですが今回魔術師相手に、一番大事な部分を無視して使ったので、失敗しても仕方ありません。


 「君に勝てる部分は、数とツギハギの力だけだ。偽物の力で申し訳ないけど、僕を新しい境地に連れて行ってもらうよ」


 少年は地面に手を置き、おそらく全力だと思われる魔力をつぎ込み大魔法を発動させます。


 「リブデッド」


 地中から大量のアンデットが波のように現れます。


 「これで終わりだよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る