行け!子フェンリル!

 子フェンリルからパパと呼ばれた人物は、純白のフェンリルとは思えない程の体内にある魔力から全身まで全て黒くなっていました。


 「こっちまで進化しているのか」


 聖獣と呼ぶには難しく、闇に呑まれ荒々しく魔獣と呼ぶ方が自然な状態でした。


 「パパやめて!」


 父フェンリルは、動揺し動けない子フェンリルに向かって拳を大きく振り下ろします。


 「あなた!自分の子供を殴ろうとするなんて父親失格よ!」


 母フェンリルがギリギリのところで間に入り、拳を受け流しました。

 フェンリル達を中心に地面にヒビが入り割れていきます。

 父フェンリルのパンチがものすごい威力で放たれた事がよく分かります。


 「素晴らしい!素晴らしい威力だ!こいつは僕の最高傑作だよ!力が湧き出てくる。もっともっと強くなるんだ!」


 少年は恍惚こうこつとした笑みを浮かべています。

 僕は子フェンリルを捕まえ、父母フェンリルの戦いから遠ざけます。


 「流石にお父さんを攻撃できないよな。僕達はあいつを攻撃するぞ」


 最初の動揺を見て、子フェンリルは父親へ躊躇ためらわず攻撃する出来ないと感じました。

 一度でも正面からあの拳を受けたら、僕達は木っ端微塵です。

 ですので僕は少年を指差して、最前の選択を考え母フェンリルにお願いをします。


 「僕達はクソガキを攻撃するのでそっちをお願いします」

 「わかったわ!久しぶりの夫婦喧嘩行きましょうあなた!」


 母フェンリルは、父フェンリルを連れて山を昇って行きました。


 「誰がクソガキって?」


 少年はかなり怒っているようで、顔が赤く染まっていました。


 「お前だよ。クソガキ」

 「僕はお前より何百年も生きているだ!クソガキなのはお前だろ!」

 「そっか!今子供なの忘れてた」


 気分は前世のままだったので少年をガキ扱いしましたが、今は僕も立派なガキでした。


 「前衛は任せた。行け!子フェンリル!」

 「僕が前衛なの!?って子フェンリルってなんだよ!」


 子フェンリルは、ぶつくさ言いながら少年の目の前まで走り込み、大振りの爪攻撃をしかけます。


 「早いね。でもその程度で僕に攻撃するなんて百年早いんだよ!」


 少年は実際に何百年と生きているからか、百年という言葉の重みが違います。

 しっかりと子フェンリルの顔にカウンターを合わせ、一撃を狙われてしまいます。


 「本当にそうかな?」


 何も無いはずの子フェンリルの顔と、少年の拳の間に赤い魔法陣が現れます。

 そしてその魔法陣からバスケットボールサイズの炎の玉が現れます。


 「僕お手製のファイヤーボールだ」


 僕のファイヤーボールは、少年の腕を肩まで消し飛ばしました。

 そこに子フェンリルの攻撃が入り、袈裟斬けさぎりが深く入ります。

 やはり子供でもフェンリル。結界の時から分かっていましたが、かなりの戦闘力を持ち合わせておりいい攻撃が入ります。


 少年の肩や胸の傷からは、瘴気が流れ出ていきます。


 「くそ、お前今何をした」


 僕は少年に向かってイタズラが成功した子供のような笑みを浮かべます。まぁ元から子供ですけどね‪w

 そして直ぐにネタは割れそうなので嬉々として答えます。


 「並列思考を使って脳の中を読んだんだよ。君達二人のをね。それであらかじめファイヤーボールをセットしておいたんだ。そしたら君がまんまと踏み込んで来たって訳。まぁこれはかなりの脳を使うから、近距離戦と同時に出来ないんだ。だから子フェンリルに前衛させた訳よ」

 「なるほどそういう訳か」

 

 少年は体を修復し、元の姿に戻ります。

 そして少し口角を上げました。


 「じゃあ、お前を攻撃したらどうなるんだ?」


 子フェンリルをその場に放置し、少年は真っ黒い穴を僕の背中側に作り、転移して拳で攻撃してきます。


 「お前バカだろ」


 僕は左に一歩動き、腕だけで上段に構えます。

 そして腕の先に黒いモヤが現れ、その中から白銀の剣が振り下ろされます。

 その剣は、少年の体をそのまま二等分し上半身と下半身の二つに分かれました。


 「なん、で」

 「力があっても頭が弱すぎだろ。確かに思考を読まれるなら、反射的に攻撃するって良い作戦だと思う。だがな相手の話を真に受けるのは愚の骨頂だろ。なぜ嘘だと考えなかった」

 「くそが」


 二つになった少年は、体が溶けて無くなってしまいます。

 それを見た終えた僕は、後ろを振り向き視線の先にいる人物に声を掛けました。


 「そろそろ出てきてもいいんじゃないか?本体さんよ」

 「よく気付いたね。正解だよ」


 ガサガサと茂みが動き、その中から二等分になり溶けたはずの少年が出てきました。

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