第73話 ifリリアルート エンド
もう十二月も中旬だった。
リリアちゃんの卒業ライブはすぐそこまでせまっていた。
あれからたまに、いや週に何回かはリリアちゃんとメッセージを送りあったりしている。
内容はほんとに些細なこと。
日常会話みたいな、そんな話をぽつぽつとしていた。
正直、リリアちゃんのしたいことは分からなかった。
もしかしたらちょっとした暇つぶし感覚なのかもしれない。
それでも私は嬉しかったし、携帯を見るたび舞い上がりそうになっていたけど
ほんとにこれって何なんだろって、ふと冷静になる時はある。
前は、私に卒業のことを早めに教えてくれようと連絡してくれたんだと思う。
じゃあ、今は?
あの日あれから、一応リリアちゃんの連絡先は携帯には入っているけど
私から連絡することはないと思っていた。
私はその立場にはいないし。
その気持ちは今も残ってはいるんだけど、こうやって頻繁にメッセージが来て、それに返信していくうちに、
これってもしかして友達なんじゃないのかなっていう疑問が生まれそうにる。
そんなことあるわけないと思っていても。
現実にリリアちゃんとライブハウス以外で話せる関係になっていた。
◇◇
その日、夜の九時過ぎとかそれくらいだったかもしれない。
部屋にいたら携帯が鳴った。
メッセージじゃなくて電話だった。
挨拶もそこそこに、二日後に私はリリアちゃんの家に遊びに行く約束をした。
リリアちゃんはちょっと機嫌が悪そうだった。
原因は私かもしれないなんて、思い上がりな気もした。
けっきょく、リリアちゃんの気持ちなんて分からないまま。
会うことを断る理由も私にはなかった。
そして当日。
学校が終わって、まっすぐリリアちゃんの家の最寄り駅に向かう。
リリアちゃんが駅まで迎えに来てくれて一緒にリリアちゃんの家まで歩いた。
一般的な二階建ての、庭がある一軒家だった。
リリアちゃんについて庭に続く門を入ると小学校低学年か中学年くらいの男の子二人が
ちょうど家から出て行くところだった。
「「こんにちはー!」」
二人分のあいさつが重なって聞こえた。
私は弟がいないので、小学生の男の子ってこんなに元気がいいんだなぁなんて思いながら
「こ、こんにちは!」って挨拶を返した。
「姉ちゃんの友達、見たことない人だ!」
そのあと、男の子がそう言った。
「うん! 見たことない! ハピファンやりに来たの?」
「ハピファン……?」
私は反射的に聞き返した。
ハピファンっていったらあれかな?たしかハッピーファンタジー。何年か前にすごく流行ったゲームソフトの名前だった。
ゲームは詳しくないけど話題になっていたから名前は知っている。
「うん! ハピファン2! テレビのとこ置いてあるよ!」
男の子の一人がそう答えた。
「ちょっと! 変なこと言わないでよ!」
へー、続編とか出たんだって思っていたら、リリアちゃんが私と男の子の間に割って入った。
「もう! 出かけるなら早く行ってよ ! ほら!」
リリアちゃんが慣れた感じで男の子たちにそう言っていた。
二人がリリアちゃんに急かされるように外に出かけたあと
リリアちゃんは私に
「ごめーん」なんて言うからちょっと笑いそうになる。
「ううん、弟いいねー」
「ぜんぜん良くないわよ!」
私は、あははって笑いながらリリアちゃんの家の門を入り後ろをついて歩いた。
「私の部屋、二階だから」
玄関を開けるとリリアちゃんはそう言った。
「お、お邪魔します」
靴を脱いでいると玄関に繋がった部屋から、けっこう小さそうなの女の子の話し声と、番組は分からないけどテレビの音がした。
「ごめん、妹いるからうるさいかも」
ってリリアちゃんが部屋のあるほうをちらっと見た。
「いやいや、妹もいるんだね」
「そうなのよねぇ」
そんな話をしながら靴を脱ぐと、玄関を入ってすぐにある階段をリリアちゃんについてのぼった。
緊張するなぁって思いながら、あんまりキョロキョロするのはやめてリリアちゃんの背中をずっと見ていた。
二階にあるリリアちゃんの部屋に入れてもらうと、
私はとりあえず持ってきた手土産のお菓子を渡した。
「ありがとう。適当に座ってて。飲み物持ってくるわ」
「う、うん! おかまいなくぅ」
リリアちゃんの部屋はシンプルだけど女の子らしい感じだった。
なんとなく小物は赤とかピンクが多い気がして、好きなのかなって思った。
私は部屋の真ん中辺りに置いてあったテーブルの壁側に座った。
そして、ほどなく。
「お母さんと妹、もう出かけるから」
リリアちゃんがジュースを持って来てくれて、お菓子と一緒に私の前に置いてそう言った。
「あ、そうなんだ」
「この時間、いつも妹の習い事なのよ。
車だし終わるまで帰って来ないと思うから気にしないで」
「何人きょうだい?」
「私と、弟二人と妹よ」
「長女なんだ!? 知らなかったかも」
ブログとかに弟や妹の話題って出たことがない気がする。初めて知った情報だった。
「いちいち言わないわよ。別に隠してたわけじゃないけど。……なんか、イメージ崩れるじゃない」
「えー? そう?」
◇◇
そんなふうにちょっとだけ話して。
「ねぇ、飛鳥」
って、リリアちゃんがちょっと違うトーンで言うから
そういえば一昨日に電話した時、リリアちゃん機嫌悪そうだったなって思い返した。
「う、うん?」
「私が言ったこと考えた?」
「う、うん……」
「そう。ならいいわよ。聞いてあげる」
この前公園で話したことだと思う。
「もっと私たちの今後に関係する話よ」ってやつ。
あれから今まで、忘れていたわけでも、考えずに放っておいたわけでもないけど。
もし私の勘違いだったらリリアちゃんに迷惑をかけてしまうから口に出せなくて、けっこう時間が経ってしまった。
別に友達になれなくても、このまま一生会えなくても
リリアちゃんのことが好きだった気持ちに変わりはないし。
だから、私から言い出すのってなんか違う気がして……。
でも、ずっと憧れの存在だったリリアちゃんに私は言った。
「リリアちゃん。……もしかしてだけど……、私と、友達になってくれるの?」って。
リリアちゃんの表情は、私の想像していたものとは違った。
とりあえず嫌そうな顔じゃなくて安心したけど。
「…………もういいわよ、それで」
って、ちょっとあきれたみたいな、どうでもいいみたいな感じで頬杖をついていた。
えっと……、私、一大決心だったんだけど。
断られなくて嬉しいんだけど、少し複雑な気持ちになった。
いや、でもやっぱりものすごく嬉しい!
そう思っていたら、
「やっぱりよくないわ」ってリリアちゃんが言った。
「え?」
だめってこと?
私はリリアちゃんの顔色を伺った。
さっきまでは四角いテーブルを挟んで斜めに座っていたリリアちゃんは、いったん席を立つと急に私の隣に移動した。
「え……?」
リリアちゃんに顔を向ければなんだかすごく近い距離で目が合ってしまう。
私は驚きと緊張で、上半身だけちょっと横にずらした。
「な、え?」
ふとこちらの壁側にあるタンスが頭に浮かんだ。
バタバタ動いたり、後ずさったりするほどのことなのか分からなくて私は動けない。
それに、それ以前にびっくりして私はほとんど固まったままだった。
「ねぇ、私、自分からこういうの言ったことないの。
ずっと言われて当然だったんだから」
言い方はちょっと怒ってるみたいだったけど、でもリリアちゃんは私の手を握った。
というか指を指の間に絡ませるように入れていた。
「ねぇ、いいでしょ?」
なんとなくドキッとする手の握り方をされて、「何がいいの?」と聞けないでいる。
私は瞬きをしながら黙ってリリアちゃんを見ていた。
「だいたい、何で妹と付き合ってるのよ?」
また不機嫌そうにリリアちゃんは私に聞いた。
「いや、違うよ……。付き合ってないよ。あれは……」
「それでも! ありえないじゃない? どう考えても女の子同士で付き合うなら相手は私でしょ?」
「あ、えっ? 待って待って!」
絡まった指の感触が強くなり、リリアちゃんとの距離が近くなる。
とくに顔が近い気がした。
「私の……私の何がいいのっ?」
もうほとんど考える前に私の口から出ていた。
さすがに友達以上になりたいんだなって気づくっていうか、距離とか雰囲気とかで察したっていうか。
「そんなの……なんでもいいじゃない」
リリアちゃんはそう言い切った。
私はびっくりしてしまう。
ちょっとの間があって。リリアちゃんは私から顔とか体を少し離すと、しばらく何か考えるような表情をしてから質問に答えてくれた。
「……気づいたら。……ライブ、来てるのかなって気になって。
なんか、そんな感じよ」
「へ……、そうなんだ……」
答えてくれて嬉しいけど、けっこう適当だなって思った。
私が知っているリリアちゃんってこんな人だったような気もするし、なんか違う気もする。
「でも初めて会った時から飛鳥のことは可愛いと思ってたわ」
「ええっ? 嘘でしょ?」
今日のリリアちゃんの行動にもかなり驚いているけれど、
意外な褒められ方をされて同じくらい私は驚いた。
「ほんとよ。可愛いわねって言ったじゃない?」
「言った……っけ?……言ってた……、かも……?」
そうやって思い返せば言ってたような?でもお世辞だと思っていたからあんまり覚えていない。
「そうよ。私、嘘なんかつかないわ」
リリアちゃんは大げさな宣言をした。
あれ?そうなのかなって考えてはみたけど。
けっきょく私は彼女のことなんて何も知らない。
でも、どちらにしても次にささやかれた言葉はたぶん本当で。
私はリリアちゃんのことなんてあんまり知らないけれど、この言葉だけはなんだかスッと私の中に入ってきた。
また距離が近づいて、恋人繋ぎになっている指に力を入れ返す。
体中が熱いし心臓も早いけど気にならなかった。
──「私、好きな人にしかこんなことしないんだから」
そうやって言うリリアちゃんの顔を途中まで見て、私は目を閉じた。
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