第69話 終わり良ければいいよね!? 2

挨拶が終わって二曲目の披露が始まって、私はふと蛍ちゃんを見た。

普段のライブではリリアちゃんしか見ないことにしているし、

ほとんど無意識だった。


蛍ちゃんが視界に入って私はびっくりしてしまう。


この人、私が知っている蛍ちゃんだっけ?って思った。

美人だし、可愛いし、歌もダンスも上手なのはずっと前から知っているけど、

そうじゃなくて。

ステージの上で笑っている蛍ちゃんは私の知らない表情をしていて、どきっとした。


数秒間、時間が止まって。蛍ちゃんと目が合う前に私は急いで顔を逸らす。

さすがにステージにいる妹と目が合うなんて恥ずかしすぎる。

ほら、き、き、昨日のこともあるし。



そうやってライブの数十分はあっという間に過ぎていく。

そのあとはやっぱりライブを見る時間は好きだなって思いながら過ごした。



◇◇



ライブの後のチェキ会で私はいつも通りリリアちゃんとチェキを撮るために列に並んでいた。

相変わらずリリアちゃんの列はけっこう長くて、しばらく待って私の順番になった。


「飛鳥!」

リリアちゃんは私を見るとそう呼んだ。


「うん」

いろいろあったけどこうやってリリアちゃんと会えた瞬間はいつでも笑顔になれる。

それはそうと、リリアちゃんはやっぱり私のことを呼び捨てにすることに変えたらしい。

ちょっと慣れてきて嬉しいなって思う。



「別にチェキ撮りに来なくてもよかったのに」

私が隣に立つとリリアちゃんはそう言った。


「いやいや、何で!? チェキ撮りたいよ!」


「うーん、そう?……そういえば飛鳥、今日ライブ中によそ見してたでしょ?」


「えっ?……し、したっけ? あはは……」

蛍ちゃんのこと見てた時の話かなって思ったけど、とりあえずあははって誤魔化した。



「まあ、いいわ。私、そんなことで怒らないし。

私がやめたら飛鳥も、もうライブ来ることもなくなるじゃない?」


「あ、そうだよね……」


「あと少しだし、それくらいはいいわよ」


「うん」


私はアイドルが好きっていうよりはリリアちゃんが好きだからライブを見にきていた。

別にライブは楽しいとは思うけど。リリアちゃんが出演しないなら、もうこんなふうにライブハウスに来ることもなくなると思う。



時間になりチェキを撮った。サインを入れてもらいそれを受け取る。


「ありがとうリリアちゃん。じゃあ、またね!」

私はそうリリアちゃんにお礼を言った。


「ええ。…………今日の夜、電話す……」

チェキを受け取る時、リリアちゃんは少し伏し目がちに小さめの声でそう言った。


「携帯、見てね」

そしてリリアちゃんはあらためてそうやって言うと、私にチェキを渡してくれて

笑顔でお互いに手を振って別れた。


そうやってチェキを受け取って私の順番が終わり、

次に少し離れた場所からリリアちゃんを見たときには、もう次に並んでいた人と話していた。


いつものライブハウスの光景。

リリアちゃんの卒業までたぶんあと二カ月弱くらい。

こうやってチェキを撮るのもあと少しなんだなと思った。

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