第68話 終わり良ければいいよね!? 1

「彼女になるのは飛鳥ちゃんの気持ちが決まるまで待ってる」


そうやって、私たちのお試し期間はあっという間に終わった。

時間にしてわずか一日にもなっていない。




「お、おはよう蛍ちゃん」


「うん。おはよう」


「ご、ご飯おいしいね」


「そうだね。昨日と同じトーストだけどね」


なんか昨日も同じようなこと話したなと思いながら

私は蛍ちゃんと朝食をとった。


付き合わないということは蛍ちゃんは義妹なわけで。


あれからちょっと気まずいかなと思ったけれど、蛍ちゃんはどっちかっていうと、ニコニコしていた。


キスとかしたあとに普段通りになんてできないよ……!

と私は思っていたけれど。


昨日にしろ今日にしろ、いざ一緒に過ごしてみれば意外といつもの日常と変わらなかった。


蛍ちゃんは気にしていないのかな?

私は蛍ちゃんの顔を見るだけでけっこう恥ずかしくなるんだけど。




「飛鳥ちゃん、今日ライブ来る?」

そんな私を知ってか知らずか、本当に何事もなかったかのように蛍ちゃんは聞いた。


今日は日曜日でシューティングスターのライブがある日だった。


「ああ、そ──」


「来なよ。リリアもうすぐやめちゃうじゃん」


私が答える前に蛍ちゃんはそう言った。



「別に来たらいいんじゃない。ライブ中はお互い他人ってことで」

蛍ちゃんのその言葉は何回も聞いたことがある。

でも、昨日の今日に限ってはさすがにすぐには頷けなかった。


私が黙っていると蛍ちゃんは続けて言った。


「だから、飛鳥ちゃんの気持ちが大事なんだよ。

無理やり邪魔しようとか、私に縛りつけようとか、そんなこと別に思ってない。

…………今は。……信用してるし」



「何を信用してるの?」

最後のほうはちょっと声が小さくて聞こえづらかったから聞き返した。


「別になんでもない! とにかくライブ来てね! 絶対! それだけ!」



◇◇



蛍ちゃんもそう言ってくれたし、リリアちゃんはもうすぐ卒業しちゃうし、

そういうわけでその日の夕方。

私はいつもと同じライブハウスに来ていた。


このライブハウスは入場した順に好きな場所でライブを見ることができる。

そうは言っても、最前列は競争が激しいし、最前列じゃなくてもセンターの正面は人気がある。



そういうわけで、そこまで広くないライブハウスの、前から三列目の左端。

私はいつもの場所でライブの始まりを待った。


シューティングスターの出番になり曲のイントロが始まった。

毎週披露しているシューティングスターのオリジナル曲だった。


明るい曲なのに、リリアちゃんがもうすぐ卒業してしまうと思いながら聞くと

今までとは違って苦しい気持ちにもなった。


それでも私は、この曲もリリアちゃんも大好きだった。

ステージの真ん中にいるリリアちゃんが少しだけ私にニコッとして

それからまたまっすぐ前を向いて、笑っていた。



そのあとはメンバーの挨拶と一言だった。


──「赤色担当、リリアです。今日もみなさんに会えて嬉しいです! ライブに来てくれるみなさんが大好きです! よろしくお願いしまぁす!」


リリアちゃんの卒業はまだ公式サイトでは発表されていなかった。あと数週間もすれば発表されると思う。悲しいけどライブ中はしんみりするのはやめようと思って、私はリリアちゃんに思いっきり拍手をした。


あと、一昨日に公園で言われたことも、もう一回ちゃんと考えないと。

というか、考えてもやっぱりよく分からないんだけど。


私と友達になってくれるのかもしれないし、違うのかもかもしれない。

それは大きな問題のようで、でもそうじゃない気もした。




──「青色担当、蛍です。今日の朝ごはんはトーストでした。えっと、それだけなんですけど。今日も精一杯、楽しんで頑張ります。よろしくお願いします」


間に何人か挟んで蛍ちゃんの挨拶もいつも通りだった。

蛍ちゃんが家に来たばかりのころに比べると、拍手も声援も増えた気がする。

まぁ、そんなことは私がどうこうできる話じゃないし、

ただただ応援する気持ちで、ファンの人に混じって蛍ちゃんの挨拶に拍手をした。

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