第67話 名前のない関係6

私の気持ちが聞きたいと言われて、今まで以上に考えた。

蛍ちゃんのことは好きだし、付き合ったらたぶん楽しい。ドキドキもする。

知り合ってからずっと、私なりに大切に思っている自信はあった。


でもそれ以上に違うことが頭に浮かんだ。

両親のこと。さっきみたいに知り合いに会った時のこと。それに蛍ちゃんが受けていた映画やドラマのオーディションのこと。

この部屋には蛍ちゃんが去年の生誕ライブでファンの人からもらった寄せ書きが書いてあるアルバムも机の上に飾ってあった。


そういうの全部無視できるくらい、蛍ちゃんのことを女の子として好きかって聞かれたら……。

私の意見は……。


「私は、…………ごめん、……分からないよ」


それが答えだった。


「でも妹だからとか、優しくしたいとか、そんな理由だけじゃなくて蛍ちゃんのことは好きだよ。今日もいい加減な気持ちで返事したわけじゃないよ。

今すぐ付き合うか答えられないだけで。……それは、信じて……」


「うん、分かってるよ」



都合が良い言い方しているし、嫌われても仕方ない。

でも蛍ちゃんはそうやって微笑んでくれた。



「分かってるよ。だから早いもの勝ち的な感じで押せば、飛鳥ちゃんの一番になれるかなって思ったもん」

そしてなんかちょっと不穏な言い方をした。

口を利いてくれなくなっても仕方ないと思っていたから、それに比べたらぜんぜんいいんだけど

なんだか意味深にニコッてしている。


「……早いもの勝ちって何?」



◇◇



「いやいやいや!? 何で!? 」


そして、キスをしようと提案されて

さっきまでの感傷的なムードもなく私は間抜けた声を上げた。


「飛鳥ちゃんが他の人と付き合ってもファーストキスの相手は私になるでしょ?

だから、とりあえずはそれでいいよ!」


「意味分かんないよ……。だいたい誰かと付き合う予定なんかないし……」


「付き合う予定ないの? ないんだ? ふーん」


「な、ないよ。何で急に?」



「……飛鳥ちゃんの初めては、私がいい」

私の質問には答えずに、蛍ちゃんはそんな変なことを真剣な顔でそう言った。

私は思わず目を逸らしてしまう。


「私のこと好きって言ったじゃん。嘘だった?」

そんな私に向かって蛍ちゃんは続けて言った。


「嘘じゃないよ! 蛍ちゃんのことは本当に──」


そして、もう一度蛍ちゃんとばっちり目があった。

蛍ちゃんがキスなんて単語使うから緊張してしまう。


「好き同士なら、しよう? ……いや?」

蛍ちゃんの笑顔はずるい。

さっき答えを決めたばかりなのに胸が苦しくなる。


「いやじゃない、けど。……こんな、けっきょく妹なのかなんなのか分からない関係で、……するの?」

私はもう蛍ちゃんから視線を外せなくて、そう聞いた。




「うん。それにね、飛鳥ちゃん。

お姉ちゃん、なんて私は思ったことないよ。……女の子として飛鳥ちゃんが好きだから」


いつから?とか、勘違いじゃなくてほんとに?とか聞く余裕はなくて。


蛍ちゃんだって初めてだって言ってたのに。

そうやって蛍ちゃんは私の手に手を重ねると、そっと唇を近づけた。

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