第66話 名前のない関係5

家に帰って、スーパーで買ってきたものなんかを一通り冷蔵庫にしまって。

時計を見れば夕飯までまだ少し時間があった。


「蛍ちゃん、どうする?ご飯の用意はまだ早いよね?」


「部屋にいようかな。飛鳥ちゃんは? 一緒にいよ?」


「うん。じゃあ、お喋りしよっか」


それで二人で蛍ちゃんの部屋に来た。

蛍ちゃんはベッドを背もたれにして膝を抱えるように座った。

私もその隣に座る。

蛍ちゃんとはよくこんなふうにして、お互いの部屋で話をしている。


「今日、楽しかったね」

始めは私がそうやって切り出した。


「うん、楽しかった」

蛍ちゃんもそう言ってくれた。


そのあとはなんとなく沈黙が続いた。



「……ほんとにいらなかったの?アクセサリー。クリスマスくらいにまた見に行こう」

わざわざもう一度話題にしなくてもいいかなとも思ったけれど、気になって口に出した。


「ううん、いらないよ。誰かに見られたら変に思われるじゃん。つけれないんだったら買っても意味ないし」


「あ、そうだよね」


「私は別に変に思われてもいいけど。飛鳥ちゃん、いやでしょ?」


「…………」


「…………」


「…………そっか」

私は短く答えた。誰かに見られても気にならないよとは言えなかった。



「ねぇ、飛鳥ちゃん。やっぱり付き合うのやめよっか」

そして、蛍ちゃんがそう言った。


一瞬、どきりとして、でもなんとなくそう感じていた。

一日目にして、彼女をやめることになるとはさすがに思っていなかったけれど。

蛍ちゃんが、付き合うのやめるって言い出したこと自体にはそこまで驚きはなかった。

それでも一応、理由を聞いてみた。

「なんで? 今日一日付き合ってみて思ってたのと違った?」


「ううん、別にそういうわけじゃないけど」



また沈黙だった。


「いや、でも私は今日楽しかったよ!?」

とってつけたように聞こえるかもしれないけど本当にそうだった。

蛍ちゃんがいいならずっとこのままでも……。




「飛鳥ちゃんはさ、私が妹のままでも楽しいよね?

私とどうしても付き合いたいわけじゃないよね?

だから……やめる」


「それは……」


「形だけでも彼女になれたらいいかなって最初は思ったんだけど。

でも、飛鳥ちゃんの気持ちがなかったら意味ない」


「…………」



「ほら、引き止めないし」


「いや、だって……、それは……」



「付き合う?どうする?」


「蛍ちゃんはどうしたいの……?」



「私ね、飛鳥ちゃんが優しいのは嬉しいよ。ほんとにずっと嬉しかったけど……。

私のこと大事にしてくれてるんだなって伝わってきた。

でもね……」


たぶん、私が言い訳するくらいの間はあった。

それくらいの時間、蛍ちゃんは待ってくれて。


「私は飛鳥ちゃんの気持ちが聞きたい」

蛍ちゃんは最後に少し笑ってそう言った。

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