第65話 名前のない関係4

それから、少し早いけど帰りに夕飯の買い物をしてから帰ろうかっていう話になった。


私たちの家の最寄り駅で電車を降りて、歩いて帰り道の途中にあるスーパーに寄る。

そういえば蛍ちゃんが初めて家に来た日の次の日。

こんなふうに駅まで迎えに行って帰りに二人で歩いたなって、ふと思い出した。


あの時はいきなり推しメンと同じグループの女の子が妹になるって言われて。

何を話していいかよく分からないまま、とにかく仲良くなりたいなって思っていた気がする。


あれからもう何十回ってこうやって二人でいろんなところに出かけた。

蛍ちゃんと仲良くどころか、恋人になるって、そんな話になるんだからびっくりする。

このまま蛍ちゃんと付き合うってことでいいのかなって正直迷っていた。

でも蛍ちゃんの笑顔がたくさん見れるならいいのかな、とも思う。



◇◇



買い物を済ませてスーパーの敷地を出たくらいだった。


「蛍ちゃん?やっぱり蛍ちゃんだ!」

って声がした。

私よりは少し年齢の低そうな私服の女の子二人が、すれ違いざまに蛍ちゃんに話しかけた。


「こんにちはー!」

って女の子二人が私に挨拶してくれたから私も

「こ、こんにちは!」って返して、あとは少し後ろで三人が話しているのを見ていた。

たぶん、中学の同級生かなって思った。



話の内容からやっぱり蛍ちゃんの中学で同じクラスの子みたいで、

二人はこの辺りの友達の家に遊びに来ていて、スーパーにお菓子を買い出しに来たらしい。


「そういえば、来週のどこかで朝の生活指導あるらしいから気をつけてね!」

一人の女の子がそんなことを言った。


あー! めちゃめちゃ懐かしい! と、声には出さなかったけど思った。

校門で生活指導の先生が立っていて髪型とか制服の着方とかチェックされたり、

携帯とか漫画とか手に持っていると怒られたりするやつだった。


「えー! やばすぎ。私一学期に一回怒られたから気をつける。ありがとう」

一学期に怒られた話知らないなぁ。それはともかく蛍ちゃんはそうやってお礼を言っていた。


「気をつけよー! 私もさっき聞いたばっかだから。あとで他の子にもメッセしとく」


「うん、ありがとう」


「じゃあ蛍ちゃんバイバイ! また月曜日ね」


そうやって三人は少し話して、女の子たちは駅のある方向へ向かって歩いて行った。



「朝の生活指導、懐かしい! いきなり校門のとこに先生いるやつでしょ?」

私は蛍ちゃんにそう言った。


自分が中学校を卒業してから今、彼女たちの話を聞くまでそんなことずっと忘れていたけど、久しぶりに思い出してなんだか楽しい気分になった。

そうそう、抜き打ちで校門のところに指導の先生が立っているはずなのに、

なぜかこうやって事前にクラスメイトから情報が回ってくるんだよなぁって。


私が中学に通っている時からそうだった。

蛍ちゃんも私の家に引っ越してきてからは私の出身中学と同じところに通っている。



「うん、それ」

蛍ちゃんの返事はそっけなかった。

まあ、そんなこともあったなぁって楽しんでるのは私が中学を卒業して二年近く経っているからで、もちろん私も当時は笑い事ではなかったけど。


「早めに分かって良かったね」


「ほんとにそう。もう怒られたくないしスカートめっちゃ長くしてく」


「あはは」


そんなふうに話しながら帰っていたら私たちの家が見えてきた。

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