第63話 名前のない関係2
次の日の朝。付き合って初日。
朝食で蛍ちゃんと顔を合わせた。
昨日はあれから
「じゃあ一週間お試しなら」って蛍ちゃんと付き合うことになって。
そこからは何事もなかったようにいつも通りに過ごした。
付き合うってどうすればいいんだろうって。
二人でソファーに並んで座っているだけで私はけっこう意識してしまったんたんけど。
蛍ちゃんのほうが気にしていないみたいな感じだった。
寝る前に
「明日、空けといてね」
って言われたくらい。
今日は土曜日だから学校も休みだしシューティングスターのライブもないから、もとから予定はなかった。
いつもの週末と同じように起きて、今ダイニングのテーブルで蛍ちゃんと朝食を食べている。
「お、おはよう蛍ちゃん」
「うん。おはよう」
「ご、ご飯おいしいね」
「そうだね。昨日と同じトーストだけどね」
そう。目の前にあるのもいつもと同じ朝食。
そんな感じで今のところ付き合って何が変わったのかよく分からない私と
普段通りの蛍ちゃんだった。
こういう時、もっと恋愛経験を積んでおけばよかったかなって思う。
漫画とかクラスの子の話くらいしか知識がなかった。
「今日、どこ行く?」
一通り食べ終わると蛍ちゃんがそう聞いた。
「蛍ちゃんはどこ行きたいの?」
「付き合ってるっぽいところ行きたいな。
これはデートです!って感じのとこに行きたい」
「ええ? デートの仕方なんて知らないよ」
「私も分かんない。なんかいい場所ないかなぁ。彼女なんだなぁって実感できるところ」
「うーん……、難しい」
少ない知識を引っ張りだしていろいろ考えて候補を探した。
けっきょく思いつかなくて、携帯でネットの検索ページを開いて
『学生 デートで行く場所』
って検索した。
「分かんないから蛍ちゃんも考えてよぉ」
「分かったよ」
中学生と高校生が行けて、デートっぽい……。
彼女なんだなぁって実感できるところ……。
遊園地は近くにないし。
カラオケとかゲームセンターとかだと普段遊びに行く場所とあまり変わらないし。
二人でそれぞれの携帯でポチポチ検索する。
しばらくして蛍ちゃんが
「ペアの物が欲しい!」
そうやって顔を上げた。
「ペア?お揃いってことかぁ。たしかに付き合ってるぽいね!」
「やっぱりアクセサリーかな。飛鳥ちゃんはどう思う?」
「アクセサリーいいかも。じゃあ今日はショッピングビル行こっか?あの辺りなんでもあるし」
「うん! いろいろ見たい!」
「あー、でもアクセサリーってけっこう値段するよね?私、あんまり高いの買えないかも」
さっきまでとは変わって低いトーンで蛍ちゃんが言った。
「私、冬休みバイトするし買うよ。高いやつは無理だけど」
「じゃあお年玉貰ったら返すね」
「いらないよー。気にしないで。とりあえず見るだけ見に行こ?」
「うん!行きたい!」
デートとかアクセサリーとかは置いておいても。
こうやって蛍ちゃんが喜んでくれると私も嬉しい。
この気持ちが、恋愛に近いものかどうかなんて自分でも分からなかった。
◇◇
そうして二人でショッピングビルのある繁華街に来た。
「すぐにアクセ見に行ってもいいけどー。どうしようかなぁ」
蛍ちゃんは駅から出ると楽しそうにキョロキョロした。
この繁華街は少し家から離れているから来るのは夏休み以来だった。
駅前には流行のお店がいくつもあるし、土曜日だからかなり混雑していた。
「あ、あんなとこに雑貨屋さんあったっけ? 行こ!」
そう言いながら蛍ちゃんは私に手を差し出した。
出されるままに手を取った。
そこまではそんなにめずらしい光景じゃなかったんだけど。
蛍ちゃんは
「いつも繋いでるから、これだけじゃあんまりデートっぽくないね」
って口にした。
デートって、そうやって言われると意識してしまって私はちょっと恥ずかしくなる。
「う、うーん。そうかも」
「付き合ってるように見えるかなぁ」
って蛍ちゃんは私の手をぎゅっと握る。
「そもそもこの辺は人が多いからねぇ」
この辺りは混雑しているし、私たちが姉妹か友達か恋人かなんて気に留める人はいないと思う。
私だって周りの人のことは、通りすがっただけでは分からないし。
それでも蛍ちゃんが付き合ってるとかデートって言うたびに私の顔は少し熱くなった。
「ふふっ。行こう!」
そんな私に気づいているか分からないけどそうやって蛍ちゃんは笑った。
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