第62話 名前のない関係1
そうしてリリアちゃんと会ったあと、自分の家に帰ってきた。
卒業のことはまだ悲しかったけど、リリアちゃんが決めたことなら応援するしかない。
それとは別に考えておいてって言われたこともあったし。
あれって、もしかしてもしかすると私と友達になってくれるのかな……?
そんなことあるわけないと思いつつも、
けっきょくよく分からないから自分に都合の良い解釈が頭に浮かぶ。
あとで、もっときちんと考えよう。
それから卒業までの短い期間、リリアちゃんをしっかり応援しよう。
そう思いながら家の中に入り、
リビングに居た蛍ちゃんに「ただいま」って一声かける。
返事がなくて、まあ気づいてないのかなって思って
手洗いして二階の自室で制服から部屋着に着替えてリビングに降りてきた。
リビングに入るとばっちり蛍ちゃんと目が合った。
あれ? 気づいてるじゃんって思って私はもう一度
「ただいまー」
って言ったんだけど。
蛍ちゃんは
「飛鳥ちゃんウザい」
と、いきなり悪口を飛ばしてきた。
「えっ? 何? 私なんかした?」
朝までは普通だったのに。いきなりのことにポカンとしてしまう。
「さっきリリアから電話あったんだけど、私のこと何でもないみたいに言ったでしょ」
「……うん?」
蛍ちゃんの話、リリアちゃんとしたっけって?って考えた。
一回だけ話題に出したかも。
「本当は付き合ってないんでしょ?」って聞かれて。「うん」って言ったあの話かな?
「付き合ってないよって言った話のこと?……だって、私たち付き合ってないよね?」
私はそうずっと疑問に思ってたことを口に出した。
別に蛍ちゃんを悪く思うつもりなんてぜんぜんなかったけど
何でそんな話になったのかずっと分からなかった。
そんな勘違い、あり得るのかなって。
「っていうかリリアちゃんから電話あったんだ?」
どっちかっていうと、この話が気になった。
リリアちゃんは私と別れてすぐに蛍ちゃんに電話したってことになる。
蛍ちゃんにも卒業の話したのかなって思った。
「ちょっと前にかかってきた。シューティングスターやめるって。飛鳥ちゃんも聞いたでしょ?」
「うん。聞いた。びっくりするよね」
「飛鳥ちゃん、リリアと会って何話したの?」
「何って、普通に……」
ファミレスでお喋りして、卒業のこと聞いて。
そんなふうにさっきまでのことを思い返した。
「ねぇ飛鳥ちゃん! 私たち本当に付き合おう?」
私の意識がさっきまでのことに向いていると、いきなりちょっとケンカ腰に蛍ちゃんがそう言った。
驚いたけど、とりあえず聞き返した。
「ほんとに付き合うって何?」
「だから付き合うの。彼女!」
「彼女……?」
「恋人、ってこと……」
蛍ちゃんの声はだんだん小さくなる。
私はびっくりはしていたけど、
とりあえず蛍ちゃんと一緒にリビングのソファーに座ってどういうことか話を聞いた。
この前から始まって、何で最近付き合うとか彼女とかそんなこと言うんだろうって。
「えっと、蛍ちゃんは私と付き合いたいの?」
「うん。妹じゃなくて彼女がいい」
「それって……、私のこと恋愛として好きってこと?」
「そうだよ。私は飛鳥ちゃんが好き」
……それって気のせいなんじゃないの?って言葉を飲み込んだ。
こんな状況で二人で毎日一緒にいるから勘違いしちゃったんじゃないかって。
たぶんそうだと思う。
でも、もし本気で好きだって言ってくれてるんだったらちゃんとした返事をしないといけない。
考えがまとまらなかった。
「飛鳥ちゃんは?私のことどういう意味で好き?」
「私は……、誰かと付き合ったこととかないから……」
どう答えていいか分からないよ、って言おうとすれば蛍ちゃんが私の手首を掴んだ。
「え?」
「じゃあちょうどいいね。試しに付き合ってみようよ」
そしてなぜか笑顔でそう言った。
「え?……試しって何?急に言われても」
「何で?悩んでくれるってことは可能性あるんだよね?それとも、私のこと嫌い?こうやって手とか触られるのいやだ?」
「嫌いじゃないよ! いやでもないけど……」
「だったら付き合ってみないと分からないよ!」
蛍ちゃんが私の目を覗きこんでそう言うから、絶対に違うって言えなくなってしまう。
流されたって言えばそうなのかもしれないけど。
蛍ちゃんのことはもちろん大切だった。
だって、一緒にいて楽しいし毎日でも会いたいし、たくさん笑顔がみたい。
怒った顔すらも好きだし。
こんなふうに付き合いたいって言われてしまったら、気持ちに応えたいような気になる……。
いや、もっと単純に。
嫌いじゃないなら付き合ってみるものなのかな?とも思った。
私が悩んでいると蛍ちゃんが言った。
「お試しで三か月付き合ってみよ。それで私のこと恋愛対象に見れないんだったらもうやめる」
「……ええ?でも」
「じゃあ一か月」
蛍ちゃんがそんなお店屋さんの値引きみたいな言い方するから少し笑ってしまう。
「一か月って……」
それでも私がモゴモゴ言っていると蛍ちゃんが最後にそう言った。
「じゃあ明日から一週間! それならいいでしょ!?」
押し切られったっていうよりは、私も蛍ちゃんと付き合ってみたらどうなるのか知りたかった。
悲しませたくないし、一週間ならいいかなっていう気持ちも多少はあった。
やっぱり家族の好きと勘違いだったって蛍ちゃんの方から言ってくるかもしれないし。
そういうわけで、一週間。蛍ちゃんとお試しで付き合うことになった。
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