第60話 放課後、君の隣2
次の日の放課後。
私の家から少し離れたところにある住宅街沿いの駅で電車を降りた。
そして駅前のファミレスでリリアちゃんと向かい合って座っていた。
二人とも学校帰りなので制服で、私の前にもリリアちゃんの前にも、ドリンクバーのジュースのみが置いてあった。
正直、ここに来るまでもまだ半信半疑だった。
現実にそんなことあるわけないって。
でももう考えても仕方ない。
とにかくリリアちゃんの話をしっかり聞こうと思って。
「えっと、話したいことって?」
私は背筋を伸ばして尋ねた。
「ふふっ、そんなにあらたまらなくても」
リリアちゃんはクスクスと笑いながらジュースのストローに口をつけた。
「普段何してるの?学校帰りとか」
そして続けてそう言った。
「学校帰り?友達と寄り道したり、家で本読んだり、かな?」
「友達って女の子?」
「うん。クラスの子とか」
「ふーん、そうなの」
リリアちゃんは頬杖をつきながら私の話を優しい目で聞いてくれていた。
そしてリリアちゃんの学校生活のことなんかも話してくれたり。
あとは中央駅に新しいカフェができたよねとか、リリアちゃんの行っている美容院のこととか。
気づいたら小一時間くらいは二人で向かい合ってお喋りをしていた。
途中で、今日私を呼んだ理由の「どうしても話したいこと」は言わないのかな?とは思ったけど、
目の前にリリアちゃんが居るだけで奇跡みたいなことで。
話したくなったら、そのうち話してくれるかなと思っていた。
◇◇
「ありがとうございましたー」
会計をしてファミレスの店員さんに見送られてお店を出た。
一応奢ろうか?って聞いたけど、「何でよ」って鼻で笑われてしまった。
まあ数百円だしそうかもしれないけど。
「来月くらいには寒くなるわね」
ファミレスの出口の階段を降りたあたりでリリアちゃんがそう言った。
「そうだね」
たしかに。あと一ヶ月もすれば夕方や夜なんかは上着がいるかもしれない。
「駅まで送ってもいいけど。少し、話さない?まだ……、もう少し話したいわ」
リリアちゃんの問いかけにもちろん私は頷いた。
リリアちゃんが帰ると言えば帰るし。
そのあたりは任せるんだけど。
そういうわけでぜんぜん知らない土地の道を、リリアちゃんの斜め後ろをついて歩いた。
リリアちゃんはこの辺りが地元だって言っていた。
話しながら少し歩いて着いたのは広めの公園だった。
夕方だったから低学年くらいの子や学生、ジョギングをしている人とかも居たけれど。
人気が少ない場所のベンチに並んで座った。
歩道を挟んで正面には小さめの噴水があった。
「そういえば、蛍ちゃんと付き合ってるって話。あれ何?」
ベンチに座るとリリアちゃんがそう言った。
「あ、あれは、その──」
私と蛍ちゃんが義理の姉妹だっていう話と同時に、なぜか蛍ちゃんがリリアちゃんに伝えた嘘の情報だった。
当たり前だけれど私と蛍ちゃんは恋人同士ではないわけで。
何で蛍ちゃんがそんなこと言ったのかもいまだに分からないままだった。
とりあえず否定しようとしていると
「あれ、違うんでしょ?あんな嘘すぐにバレてるわよ」と先にリリアちゃんが笑った。
「え?……あ、うん。付き合ってないよ」
「そうよね。映画の時とか見てたら態度で分かるわ。別に特別な関係じゃないわねって」
「そうそう。妹っていうか、友達っていうか。なんかそんな感じ」
それはそうだと思う。義理の妹と付き合ってるなんて話、いきなり信じる人の方が少ないかもしれない。
「だって、飛鳥ちゃんは私のことが好きなんじゃないの?」
頭の中でごちゃごちゃ考えていたら、リリアちゃんの言葉で全てが吹っ飛んだ。
「えっ?」
「初めて会った時からずっと私のこと好きだって言ってたじゃない」
「うん、好きだけど」
「そうでしょ? 今も変わらない?」
「それはもちろん!」
リリアちゃんの自信に満ちた話し方と笑顔。
初めて会った時からリリアちゃんはずっと大切な人。
今、目の前にいるのは私の大好きな推しメンだった。
「そう。やっぱり今日会えてよかったわ」
ふと私から視線を逸らすと呟くようにリリアちゃんは言った。
そしてもう一度私の目を見ると
「私、アイドルやめるのよ。飛鳥ちゃんには直接言いたかったの」
そう告げた。
今日の本題についてはいろいろ予想はしていたけれど
それは考えてはいなくて、すぐには言葉が出てこなかった。
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