第59話 放課後、君の隣1
そしてしばらく。
学校の制服も長袖に変わり、完全に秋も本番って季節。
あれからリリアちゃんとは何回かライブで会ったけれど
文化祭のことととか、蛍ちゃん合わせて四人で映画に行ったこととか、そんなことあったっけ?みたいな、さり気ない態度で私に接してくれていた。
リリアちゃんがそうしてくれなかったら、私は今まで通り話せていたか分からない。
リリアちゃんって本当ににお話も上手だし性格も良いし完璧な推しメンだと思う。
蛍ちゃんもあれ以来、特に何も言っていなかった。
蛍ちゃんが妹になったところから始まって、たまたまいろんな偶然が重なっただけで。
別に私が気にするようなことなんて何もないんじゃないのかなって、それくらいに思っていたころ。
それとは別に、私は初めてリリアちゃんの思いっきり嫌そうな顔を見た。
それはもう何の前触れもなく突然に。
正直、リリアちゃんがファンの前であんな顔をするなんて意外で仕方がない。
いつも通りチェキ会に参加している時だった。
始めは普通に話していた。
「そういえば冬休みバイトすることにしたから、たまにライブ来れないかも」
って。私が話し出したことがきっかけだった。
「えっ? バイト?」
「うん。でもバイトない日はライブ来るから!」
「飛鳥ちゃん……。もしかしてだけど、私のためにバイトするの?」
「そうなるのかな?ま、でも私がしたくてやってることだから気にしないで。そういえばちょっと早いけどクリスマスプレゼント何か欲しいものある?」
「…………そんな、クリスマスなんて、先の話……」
そうやってリリアちゃんはどんどん嫌そうな顔になって目を合わせてくれなくなった。
一年以上も毎週会っていたから分かる。
気のせいじゃなくて何か嫌がられることを言ってしまったみたい。
バイトの話、押し付けがましかったかなって反省しながら帰宅した。
でも春休みも夏休みも長期休みのたびに父の紹介で家庭教師のバイトはしていたし、
そのことはリリアちゃんにも話していたはずなんだけど。
うーん……、他の理由かもしれないけど謝ったほうがいいのかなって悩んでいた。
それから数日。
リリアちゃんの表情が曇った理由は分からないままだったけれど。
それとは関係なく日々は過ぎていくわけで。
夕飯のあと自分部屋の机で宿題をやっていたら、急にガタッと扉が開いた。
入ってきたのはもちろん蛍ちゃんだった。
蛍ちゃんがこういう扉の開け方する時ってあんまり機嫌が良くないことが多い。
全く心当たりがなかったけど、けっこうよくあることだし軽い気持ちで
「どうしたのー?」
って聞いた。
返事もなかったし表情もよく分からなかった。
そのまま蛍ちゃんは私の前まで来ると無言で携帯電話を差し出した。
蛍ちゃんの携帯だった。
「え、なに?」
「飛鳥ちゃんあてに電話」
「へ?……誰?」
最初、海外出張に行っている蛍ちゃんのお母さんとか、そういう家族関係の電話かと思った。それくらいしか蛍ちゃんの携帯を経由して私あてに電話をかけてくる人なんて思い当たらないからだった。それでもリビングに固定電話あるし、おかしな話だけど。
とにかく私は携帯を受け取ろうとして、目の錯覚を疑って三回くらい見直した。
携帯の通話画面をよく見ると「大橋(おおはし)リリア」って出ていたからだった。
あんまり大きく名前が表示されていなかったから今、気づいた。
リリアちゃんってあのリリアちゃん?いやでも、私リリアちゃんの名字とか知らないけど。
でももしかして?って、心臓がバクバクした。
「ん」
蛍ちゃんは、早くって感じて携帯をさらに私に近づけた。
蛍ちゃんに目で訴えたけど、電話の相手について何か言ってくれそうにはなかったので
そのまま大橋リリアさん?の電話に出ることにした。
「……はい」
「飛鳥ちゃん?急にごめんね。私だけど分かる?……えっと、リリアよ」
「あっ、えっ、うん! 分かる! 分かる……と思うけど。……リリアちゃん?」
「うん、そうよ」
声も私の知っているリリアちゃんだった。
やっぱり電話の相手は私の推しメンのリリアちゃんで。
びっくりしたけど声が裏返らないようになんとか話した。
「どうしても話したいことがあって。蛍ちゃんに頼んだの。今、平気?」
「平気と言えば平気だけど……」
リリアちゃんにそう尋ねられて私はちらっと蛍ちゃんを見た。
蛍ちゃんは私のベッドに座って、こちらを見るわけでもなく下を向いてぼーっとしているように見える。
そういえばこの携帯は蛍ちゃんのやつで、借りっぱなしだったことを思い出す。
待たせてしまっているのかもしれない。
そして、私はリリアちゃんと少し話して連絡先を交換した。
すぐに自分の携帯から電話をかけ直す約束をして一旦通話を切った。
リリアちゃんも蛍ちゃんの携帯で話していることを気にしているみたいだったから。
話の流れで、「じゃあ手が空いたらかけ直して」って言われて。
まるで友達みたいに普通に交換してしまったけれど、今になって動悸とか手の震えがはっきりと分かるようになる。
私は少しでも気持ちを落ち着かせようと大きく息を吸い込む。
それはそうと蛍ちゃんに携帯を返した。
「はい。待たせてごめんね。ありがとう」
「リリア、なんて?」
って蛍ちゃんは聞いた。
「なんか、どうしても話したいことがあるんだって」
「なに?」
「まだ聞いてない」
リリアちゃんがそこまでして話したい内容も全く予想がつかなかった。というか、さっきの心情的にそれどころではなかった。
蛍ちゃんは携帯を受け取ってもまだ私のベッドの上に座ったままだった。
別にいいんだけど、何かあるのかなって思う。
私はしばらく蛍ちゃんを見ていたけれど、蛍ちゃんも無言で見つめ返してくるだけだった。
「電話ありがとね」
少し不思議に思いながらも、私はもう一度蛍ちゃんにお礼を言うと自分の机に置きっ放しになっていた携帯電話へ向かった。
リリアちゃん待っていると思うし、早くかけ直そうって思う。
そうやって今度は自分の携帯を手に取るといつものパスワードを入れて画面を開いた。
新着のメッセージが来ていた。
リリアちゃんからだった。
さっき教えたばかりなのにもう送ってくれたみたいで急いで開けば、私はここ最近で一番目を疑った。
何回も何回も読み返した。
今度こそ本当に夢なのかもしれないと思う。
『明日会わない? 電話でもいいんだけどできれば直接話したいから』
そんなメッセージがリリアちゃんから来ていた。
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