第52話 大橋リリアが思っていたこと2 (リリアside)

(リリア視点)


「気が向いたら誰か適当に誘って行きなよ」って

文化祭のチケットを2枚貰ったわけだけれど。


当然、行くつもりなんてなかった。

2人には悪いけど。

南高校に知り合いなんていないし。


知り合い、と言っていいか分からないけれど

知っている人は一人だけいた。

私のファンでいつもライブに来てくれている子だった。


前に、模試の帰りとかで制服でライブに来ていたことがあるから南高校なのを知っている。

でも別にそれだけ。


同じ誕生日で、来るって言ってたのに私の生誕ライブに来なかった、そういう子。


だいたい文化祭に行ったからって会えるとも限らないし。

「やっぱり行かないわよ」って呟いて、しばらく眺めていたチケットを自分の部屋の机の上に置いた。



◇◇



そして文化祭当日。

もうお昼も過ぎた頃。

私は一人で南高校の校門の前に立っていた。


チケットは二枚あったけれど誰も誘わなかった。

事前に誰かと約束をしてしまったら、やっぱり行くのやめるって言いづらくなるし、

それよりも今日の午前中ギリギリまで迷っていたからだった。


もうここまで来てしまったし、チケットをくれた友人にも悪いから。

そう思ってチケットを入り口で渡し入場した。


校内はけっこう賑わっていた。

特に行くアテもなく、入り口付近で貰ったチラシを見てゆっくり歩いていると

急に声をかけられた。


知らない男子生徒二人組だった。

「一人!? 一緒にまわりませんか?」


「……いえ……待ち合わせしてるの」


「そうだよなぁ。楽しんで! バイバーイ」って言って男子生徒は校舎のほうに向かって行った。

明るい人たちだなと思う。咲良とか凛だったら、こういう時にノリよく友達を増やすのかもしれない。


自分は何をやっているんだろうと思う。

南校生、他校生入り混じって混雑していた。目的もなく歩いて目当ての人にたまたま会うなんてことありそうもなかった。


だいたい、会ってどうするのかも決めていない。


私はチケットをくれた友人に悪いから来ただけだって思い直して

手に持っていたチラシに宣伝してある、体育館のミスコン会場に向かった。

ミスコンに興味があるわけではないけれど、もうすっかり疲れてしまったし一人でフラフラ歩いているよりはいいかなって思った。



そして体育館に無造作に並べてある椅子に座っていた。

ほどなくしてミスコン開始の時刻ぴったりになり、ステージ端の机に座りマイクで話し出した人物を見て目を疑った。

何度か見直したが、どう見ても私の知っている人物、飛鳥ちゃんだった。


まさかこんなところで見かけるとは思わなかった。

少し遠目からだったけれど、私は彼女をずっと見ていた。



◇◇



ミスコンが終わって体育館を出て、これからどうしようかと思っていると

「あれ、リリア?」

と声がする。

声の方を見れば中学の時の同級生だった。

南高の制服は着ていなかったので私と同じで友人にチケットを貰ったんだと思う。

もう一人、同じ学校の子と一緒に来ているみたいだった。


少しだけ話をして別れた。

一人で来ているのもおかしいかなと思い、また「待ち合わせをしていて」なんて適当なことを言ってその場を誤魔化した。


この学校で唯一知っている彼女のことはさっき体育館のステージ上で見かけたし

もう特にやることもないし帰ろう。そう思いつつ足が真っ直ぐ校門に向かなかった。


生徒会なんてやってたのね、と少し複雑な感情になる。

よく考えれば彼女のことなんて何も知らなかった。


もう帰るのだけれど、その前に少しだけこの学校の景色を見ておきたいような気もする。

とはいっても、また知り合いに会うと面倒だし。


そう思ってなんとなく人の少ないほうに向かった校舎の裏で、彼女を見かけた。


一瞬、隠れるようにあとずさって、それから声をかけようかどうしようか迷ったところまでは覚えている。

すぐに決断したのか、けっこうな時間迷ったのかは分からない。

とにかく平静を装おってけっきょくのところ彼女に話しかけた。

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