第51話 大橋リリアが思っていたこと1 (リリアside)

(リリア視点)


その日も休み時間にいつものメンバーと話していた。

学校にいる時ってそこまでテンション上がらないし、どっちかっていうと聞き役にまわることのほうが多いかもしれない。


一番窓際の自分の席に座り、目の前の二人の話に耳を傾けている時だった。

そのうちの一人、私の友達の中でも特に顔が顔が広い咲良(さくら)の携帯からメッセージの通知音がした。


「カラオケ今日に決まったらしいよ。放課後行ける?」

咲良は凛(りん)にそう言った。


「行けるよ。向こう何人?」

「四人らしいから、あとでアイちゃん誘っても一人足りないねぇ」


咲良は私に向かっては言わなかった。私がその手の合コンに参加しないって分かっているからだと思う。



「相手どこ高?」

凛は咲良の携帯を覗き込むようにして聞いていた。

私は、「へー」ってその様子を眺めるだけだったんだけど。


「村崎高校と、風丘高校と、んーとあと南高」


「南高っ!?」

咲良が読み上げた高校の名前を聞いた途端、私はらしくなく驚いた声を出してしまった。


「えっ?」

「リリアどーしたの?」

その様子に二人も驚いたようで少々の気まずさが漂う。


「南高、めずらしくない?」

私の問いかけに二人はしばらく顔を見合わせて考えているようだった。


「たしかに」

「進学校だしね。そこまで接点ないかも」


だから何?って感じで2人は私の顔を見る。

それもそのはずだった。私はそういった話題に積極的に参加したことはないし、どこの高校にかっこいい男子がいるとかそういうことにも興味がなかった。


「リリア、そういう趣味だったんだ?」

凛に言われて一瞬、ドキリとする。


そんな私の心情を知るわけもなく

「頭良い系タイプだったんだねー」ってヘラヘラ笑っている彼女に

「そういうわけじゃないけど」なんて言いながら

内心、ずっと考えていた。



接点を持ったからってどうかなるとは思わないけど。

どうかしたいなら、もっと直接的な方法はいくらでもあると思うのだけれど。

行動に移す、口実もタイミングもずっとないような気がしていた。





「そんなに南高興味あった?今日来る?それか誰か気になる人いるなら紹介頼んどく?」

しばらく私が黙っていると咲良がそう言った。


「いやいや、やめてよ。ほんとに違うの」

「別に遠慮しなくても、リリアに紹介頼まれて嫌がる人なんかいないって。 ねぇ」


「うん、私もそう思うよ」

凛も咲良に同意して頷いている。


「ほんとに違うんだって! なんでもないわ。ほら、私まだ一応アイドルやってるしカラオケも紹介も大丈夫よ。ほんとほんと!」


「うーん……、そう?」

二人は顔を見合わせて変な顔をしていたけれど、それ以上何も言わなかった。



そして翌日。

朝のホームルームが始まる前のことだった。

二人はなんだかニヤついた表情で私の席を訪れた。

「え、何?」


「はい、これあげる。昨日一緒にカラオケ行った人が持ってたから貰っておいたよ。余ってるからどうぞだって」


「あげるって……」

私は差し出されるままにチケットのような、でも市販のそれとは少し違うような長方形の紙を二枚受け取った。

文字を見て手から落としそうになる。


「えっ?何よこれ?あげるってどういうこと?」

その紙には『第七十回 南高校文化祭』とポップな文字で印刷されていた。


二人は「ねー」って言いながらニヤニヤしている。

もうその話はなくなったと思っていたのに。

「な、何これ? わざわざ貰ってきてくれて悪いけど行かないわよ」


「いいよ、いいよ。余ってるって言ってたし貰うだけ貰っときなよ」

「私たち二人ともバイトで行けないから。リリアが持っといてよ」


そう言って、半ば強引に南高校文化祭のチケットは私の鞄の中にしまわれた。

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