第二章
第43話 家から配信した話1
夏休みももうすぐ終わってしまう。
その日、いつもより少しだけ早起きした私はリビングでランニングから帰ってきたばかりの蛍ちゃんと鉢合わせた。
「あ、おはよ。ちょうどいいや」
蛍ちゃんは休みの日は朝からランニングに出かけるのが習慣らしい。
私は高校に入ってから部活も入っていないし、ダンスのために自主的なランニングをしている蛍ちゃんを尊敬している。
それはそれとして、私は何がちょうどいいのか分からずに起きたばかりの頭で
「うん?おはよう。あいかわらず早いね」
と力の入らない返事をした。
◇◇
とりあえずとっとと着替えて朝ごはん食べてと言われたのでその通りにした。
そして今、携帯電話を横にして「うーん」って首をひねる蛍ちゃんの前にいる。
「背景、これでいいかな?何か飾ったほうがいいの?」
蛍ちゃんは自分の姿を携帯の内カメラに映しながら、ずっと迷っているようだった。
「えー、私に聞かれても分かんないよ。家の場所が分かりそうな物さえ映らなければ何でもいいって言われたんでしょ?」
「そうだけど、やるからにはきちんとやりたいわけ!せっかくの機会だし」
蛍ちゃんって基本アイドル活動について真面目だよなぁとかって思いながら
「手伝えることは手伝うけどさぁ」って私も一緒になって良い案を探した。
夏休みだしということで、蛍ちゃんの属するシューティングスターでは試験的に動画配信サイトを使ってファンと交流するという企画が出たらしい。
自分の姿を携帯で配信しながらファンからのチャットに答えるっていうサイトで、他のアイドルグループもけっこうそういった配信をしているみたいだった。
夏休み中、1人1回ずつ当番が回ってくるようで、今日は蛍ちゃんの番の日だった。
私も先日リリアちゃんの配信を見るまでそのサイトのことは知らなかった。
そういうわけで私もほとんど知識がない。
「やっぱり私にも分かんないよ。マネージャーとかメンバーの人に聞いた方が早くない?」
「聞いたけど、当日になるとこれでいいのかなって心配になるし……。アイドルオタクの意見も聞きたいわけ」
「アイドルオタクって私のこと?」
「そう」
けっきょく配信する場所はリビングのソファーを背景に、私の部屋にあったクッションを飾りの変わりに置くことにした。
リリアちゃんとか、他のメンバーの配信を見ても普通の部屋の風景をバックに配信してた人がほとんどだった気がする。
「こんな感じじゃない?あとで誰か仲良いメンバーとかにもう1回確認してみたら?」
私は自分の役目を終えたつもりでけっこう満足気にそう言ったけど
蛍ちゃんはまだ
「うーん……」
って何か悩んでいる表情をしていた。
「まだ何か迷ってるの?」
「迷ってるっていうか、私、こういうの向いてない気がするんだよね。ファンの人からもよくアイドルっぽくないねって言われるし」
「そう?気にしなくていいんじゃない?」
どういうのがアイドルっぽいのかはあんまり分からないけど、配信はとりあえず1日だけのことだしあんまり深刻に考えなくてもいいんじゃないって思った。
蛍ちゃんはまだ納得しきれていないみたいで
「でもさー……、けっきょくファンの人はみんなリリアみたいにアイドルにむいてる性格の子が好きじゃん?」
そんなことを言っていた。
「えー、そう?」
「そうじゃん! 飛鳥ちゃんだってそうじゃん!…………ま、飛鳥ちゃんは、私のことも、す、好きって言ってたけどさ……」
蛍ちゃんはちょっと赤くなって目を合わせてくれなくなった。
たしかに先日「大好きだよ」なんて言ったけど、そんなふうに思い出されるとこっちも恥ずかしくなる。
そのことはできるだけ意識しないようにしながら私は答えた。
「とりあえずさー、今回初めてなわけだし。楽しくやればいいんじゃない?分かんないけど」
ぜんぜん参考にならないと思うけど、素直な意見を口にした。
私だったら推しメンのたわいない話を聞けたり、笑顔が見れたりするだけで嬉しかったりする。
「楽しくかぁ……」
「うんうん。私は蛍ちゃんの配信楽しみだよ」
「飛鳥ちゃんもチャット欄にコメントする?」
「えっ、しないよ!?」
「始まってしばらく待っても、誰もコメントしてくれなかったらして?けっこう心配……」
「そんなことはないと思うけど分かったよ」
配信開始は夜からの予定だった。
邪魔になるといけないから2階の自分の部屋から蛍ちゃんの配信を見る約束をした。
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