第41話 答えは決まったと思っていた4

夏だから日が沈むのが遅いといっても、そろそろ暗くなってきた頃。


あのまま私はずっと自分の部屋にいる。

午後になってシューティングスターの公式サイトに蛍ちゃんが休演するお知らせが出でいた。

まあ、体調不良とか外せない用事とかで誰か休演することってたまにあるのでライブの進行自体は問題なく進むと思う。詳しいことは知らないけど。


私はそのあとも何回か公式サイトのお知らせ欄の更新をチェックした。

もしかしたら、本当に何かの間違いでリリアちゃんも用事で休演になっているんじゃないかって、期待していたつもりもないけど、でも期待していたのかもしれない。

まあそんなことはあるわけないし、実際予定通りにライブは開催されていた。



やっぱりライブに行けばよかったっていう後悔は少しもなかった。

別に他の日にもライブはあるし、プレゼントも受付に置いてくればいいだけだし、

リリアちゃんへのお祝いも他の日に言えばいい。


蛍ちゃんとはあれから顔を合わせていないけれど静かだから寝ているのかもしれない。

体調、良くなっているといいなって思いながら

私はなんとなく開いた参考書をぼーっと眺めていた。

急に予定が空いたわけだけれどさすがに読書とかしても頭に入ってこない。

参考書も頭に入ってこないけど、何も広げていないよりはマシかなって思ってた。



そろそろ電気でもつけるかぁって立ち上がろうしたら急に部屋の扉が開いた。

驚いてそちらを見れば蛍ちゃんが立っていた。


「びっくりしたぁ。体調どう?」


「何でいるの? うざ」

蛍ちゃんは私の質問には答えずにそう言った。

とりあえず高熱で動けないとか、そういう感じではなさそうでちょっとだけ安心する。


「最近うざいって言うの多くない? まあ今日は私が悪いのかもしれないけどさ」

私はそんなふうにちょっとだけ自虐、いや本当のこと言いながら蛍ちゃんを手招きした。


立ち上がり電気をつけてから二人でベッドに座った。


「体調どう?」

私は蛍ちゃんに聞いた。

「……平気」

「熱測った?」

「うん」

「なかった? ご飯食べれそう?」

「うん」


じゃあお粥かなぁ、なんて考えていたら蛍ちゃんが言った。

「ライブ行ってって言ったじゃん。リリアの誕プレまで買ってたのに」


「別にプレゼントはいつでも渡せるしー」

「でも飛鳥ちゃんも誕生日じゃん」

「でももう夜中に蛍ちゃんに祝ってもらったし、充分だよ」


蛍ちゃんと話していたらやっぱり家にいてよかったなって再確認できた。



「気使わないでって言ったじゃん」

蛍ちゃんはまたそんなことを言っていた。


「気使ってないって」

「は? うざ」



「前に、一番にしてって言ってたのは蛍ちゃんだよ」

病人にすることではないと思ったけど、あんまりウザいって言われるからちょっとだけ反抗したくなる。もちろん本気じゃなかったけど。


「それは……、そうだけど」

蛍ちゃんは黙ってしまった。やっぱり悪かったかなって思う。

ごめんねって言いながら私は続けた。


「ごめんね、冗談だよ。そういうこととは関係なく私が家にいたかったから居ただけ。もし急に悪化して何かあった時に出かけてたら絶対後悔するもん」


「だから平気だって……」

「なら良かった。別にライブなんてどっちでもいいと思うよ。いつでも行けるし」


どっちでも良くはないけどだいたい本心だった。



「蛍ちゃんが好きだし心配だから家にいようかなって思っただけだよ」


何回考えても私の気持ちが変わることはない。

一階でご飯の準備でもしようかなって、立ち上がろうと思えば蛍ちゃんが言った。

すごく小さな声だった。


「……私のこと、好きなの?」


「うん、大好きだよ」

当たり前のように私は答えた。毎日顔を合わせているし言わなくても伝わってると思うけど一応ちゃんと言葉にした。


「ほんとに? ほんとに、絶対好き?」

「うん」


「私も、…………私も飛鳥ちゃんが好き」

蛍ちゃんは真剣な表情でじっと私を見てそう言った。

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