第38話 答えは決まったと思っていた1

そして誕生日の前日。

次の日のライブの準備もしたし、あとは0時ぴったりにリリアちゃんのブログにお祝いのコメントをするだけ。


明日のライブ楽しみだなぁって思いながら。

私は自分の部屋のベッドの上に座って手元に携帯を用意しながら待っていた。



「ねぇ、起きてる?」

私の部屋の扉が少しだけ開いて蛍ちゃんの声が聞こえた。

「起きてるよー」

携帯をちょうど見ていたから時間はだいたいあっていると思う。夜の11時30分を過ぎていた。

普段なら寝ている時もあるけど、夏休みだし何より0時ぴったりにコメントしたいから今日はまだ起きている予定だった。


「どうしたの?まだ起きてるよー」

部屋の入り口に立ったままの蛍ちゃんを呼んだ。

眠くなくて私の部屋に遊びに来たのかなって思った。


蛍ちゃんはベッドを背もたれにして座りその辺りにあったクッションを抱えた。

私も隣に座ると、携帯は手元に用意したまま

「眠くないの?」

って話しかけた。


「うん」

「私も。夏休みだし仕方ないよねぇ」

「うん」


ちょっと話しかけても「うん」しか返ってこない。

何かあったのかなって思っていたけど、今度は蛍ちゃんのほうから話始めた。


「ねぇ、この前楽しかった」

そう言うわりには低めのテンションで言われてやっぱりちょっと引っかかる。

まあでも蛍ちゃんってけっこう気まぐれなところあるし、特に理由はないのかなとも思う。


「この前のお買い物?楽しかったね」

「……またどこか行きたい」

「行こうよ。どこ行きたい?」

「……決めてない」


「じゃあ今度一緒に考えよー」

「……うん」




0時が近くなってからは私は数分おきに携帯で時間を確認した。

残りあと10分を切ったくらいだった。


「何するの?」

急に蛍ちゃんが言った。


「何って?」

「今から。12時になったら」

「リリアちゃんのブログに、コメント?」

「あとは?」

「あとって何?」

あんまり意味が分からなくて私は聞き返した。


「学校の子とかからお祝いメッセージくる?話したりする?」

「んー、どうだろ?自分から誕生日の話してないし別に来ないんじゃない?」



そうこうしているうちに0時まで残り数分になった。

「ねぇ」

ってけっこうな大声で蛍ちゃんは私の腕を掴んだ。


「えっ何?」

私はびっくりして蛍ちゃんを見る。そうは言ってもさすがに時間が気になった。


「あとでいいじゃん、携帯」

「ええ?いやぁ……」

「ねぇ……」


蛍ちゃんが私の腕を掴んだまま真剣な表情でそう言うから何て答えていいか分からなくなった。

でも……、

「コメントだけするから待ってー」って私は明るく答えた。

リリアちゃんと出会えた大切な日だし

どうでもいいことなのかもしれないけど、私にとっては大事なことだった。



「なんで……」

蛍ちゃんはそう言って少しの間、部屋が静かになる。



急にどうしたのって聞きたかったけど、

でもちょっとだけ分かる気もして……。

蛍ちゃんの気持ちを完全に理解できるわけじゃないし、勘違いかもしれないけど、また独占欲っぽいやつかなって思った。


正直、ちょっとだけ迷ったけど携帯はいつでも見れる。

「そうだね。急ぐことじゃないよね」

私は携帯をベッドの上に置いて蛍ちゃんと0時を待った。

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