第37話 去年のこと、そして今年のこと4
そして今年。
今思えば、去年あの場所で蛍ちゃんもチェキ撮影会をしていたなんて
そんな不思議なこともあるもんなんだなぁって。
思い出に浸っていれば蛍ちゃんが携帯を片手に二階から降りてきた。
「ねぇ! 八日ってリリアの生誕ライブじゃん!」
「……うん」
「わざわざ平日にライブやるんだからリリアもこの日誕生日なの?」
「……そう」
「誕生日一緒なんだ?」
「……はい」
蛍ちゃんは「へー……」って言いながら、また私の向かい側の椅子に座るだけだった。
そのまま携帯をポチポチしている。
蛍ちゃんがもしかしたらまた何か言い出すんじゃないかなと身構えながら様子を見ていたんだけれど
別に怒ってるとかそういうふうには見えなかった。
「何? 集合お昼過ぎだったからそれまでどっか行く?」
私の視線に気づいたからか、せいぜいちょっと機嫌悪いくらいのトーンで蛍ちゃんはそう言った。
「え、いやぁ……、バタバタするし別の日でいいんじゃない?」
「あっそう。……うざ」
あははって苦笑いしながら
何か思っていたのと違うなって私はよく分からなくなってしまった。
別に機嫌が悪くならないなら当然それに越したことはないんだけれど。
だって、コンサートホールに出かけた日のあの感じとか、この前のお祭りの時も「味方してくれると思った」みたいな言い方していたし。
なんかこう、また、言われるんじゃないのかなって思って。
それは私の思い違いだったみたいで
一人で勝手に恋人ヅラしていたみたいでちょっと恥ずかしい。
意識してるのは私だけなのかもしれない。まぁ、それならそれで問題があるわけじゃないけれど。
そんなふうに答えの出ないことを考えていたら蛍ちゃんが言った。
「誕生日、企画とかやるの?」
「えっ、ううん。何もしないよ。プレゼント置いてこようかなって思ってるだけ」
生誕ライブの日は有志のファンで集まって、アルバムとか記念のグッズを作って花束と一緒に渡したりする。
私はアルバムの寄せ書きだけ先月に書かせてもらった。
学生だし手伝えることも少ないから有志一同には入っていない。
蛍ちゃんの部屋にも、ファンからの寄せ書きが飾ってあるのを知っている。
「プレゼント何買ったの?」
と蛍ちゃんは聞いた。
「まだ買ってないよ」
「何買うの?」
「いくつか候補はあるけどまだ迷ってる」
「買いに行く時教えて。私もついてく」
「えっ」
「どうせ夏休み暇だし」
聞かれたことに答えていると蛍ちゃんは突然そんなことを言い出し、また携帯をポチポチし始めた。
◇◇
そして、買い物当日。
電車に乗って一回乗り換えて、繁華街で降りる。
私たちはショッピングビルに来ていた。
あんまりアテもなく見て回るのもなぁって思って、事前にある程度プレゼントの候補は決めてきていた。
「で、部屋着にしようかなって思ったんだけど。……どう?」
ショッピングビルの入り口にある地図の前で部屋着のショップの場所を指しながら私は蛍ちゃんに言った。
「別に。何でもいいんじゃない」
「じゃあ決まり」
「このお店の部屋着、私もファンの人に貰ったことある。なんかお揃いっぽくなるのウザいんだけど」
「違う色にするから平気だよぉ」
プレゼントには決まりがあって、食べ物とか、どっちみちあげられないけど高価なものとかはだめだったりする。
それでいろいろ迷った結果、雑誌とかによく載っている部屋着のショップに決めた。
早くしてねって蛍ちゃんも言っていたし、結局のところリリアちゃんが何が欲しいかなんて分かりようがないから
マネキンに飾ってあった最新モデルらしい白の部屋着に決めて会計をした。
私が買い物をしている間、蛍ちゃんは一人で同じお店の他の服を見ていた。
「ごめんね、おまたせ」
「遅……くはなかったね。まあまあ早い」
「でしょ」
「早く行こ」
そのあとは、スイーツのお店に行く約束をしていた。
有名なケーキのチェーン店で蛍ちゃんが言うには、土日はけっこう並ぶらしい。
夏休みの昼間ってこともあってか今日は並ばずに入れた。
「リリアに欲しいもの聞かなかったの?」
ケーキを食べながら蛍ちゃんと話した。相変わらず、機嫌は普通そうだった。
「聞いたけど、何もいらないって」
「ふぅん。何もいらないって言うならあげなければいいんじゃない」
「えー、でも何かは渡したいよぉ」
先月くらいにチェキ撮影の時に聞いたけど
「何もいらないわ。当日に会えればそれがいちばん嬉しい」ってリリアちゃんは言っていた。
そう言われても、一応プレゼント受付用のボックスに置いてくるくらいはしたいなって思った。喜んでくれるかは分からないけど。
「私は部屋にゲーム機が欲しい」
蛍ちゃんが突然欲しいものを教えてきた。
たしかに部屋にゲーム機があれば楽しそうだけれど。
「蛍ちゃんの誕生日って冬でしょ? うちのお父さんに頼んでみる?」
「飛鳥ちゃんが買わなきゃ意味ないじゃん」
「ゲーム機本体!? 無理でしょ!?」
「うざ」
「えー……」
「早く食べてね。このあとまだ行くところあるんだから」
蛍ちゃんはこの後、猫のキャラクターグッズのお店に行きたいらしい。
ここのショッピングビルは、家からけっこう遠くて普段はなかなか来ない。
ついてくるって言われた時はびっくりしたけど蛍ちゃん、楽しんでくれてるならよかったなって。
そう思いながら私も普通に楽しかった。友達なのか妹なのか分からないけれど、義妹ってこんな感じなのかなって思っていた。
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