第35話 去年のこと、そして今年のこと2 (回想)
一年前。去年の誕生日当日。
私は一人で、家から少し離れたところにある大型のショッピングモールに来ていた。
地図を見ながらでなくては迷いそうなくらい広いショッピングモールを
あてもなく一人で一周して。好きな漫画の新刊を買って、
あとは特に何を買うわけでもなかったけど
家に帰るのはまだ少し早いかなと一階にある広場スペースのベンチになんとなく座っていた。
このショッピングモールには建物は二つあったけど、今どちらの棟にいるのかもよく分かっていなかった。
別に何か嫌なことがあったわけじゃないし、家に帰りたくない理由も特にない。
誕生日いつ?って聞いてくれるクラスの友達もいた。
私はそれを断って、はいないけれど適当な言葉で流して今ここにいる。ひとりで。
悪いかなっていう気持ちはもちろんあった。
クラスの友達のことは好きだし、一緒に出かけるのは楽しい。
だからこそ、私の誕生日を祝うなんていうくだらない理由に
彼女たちを付き合わせてしまうほうがもっと悪いんじゃないかなって、そんなことを思っていた。
けっきょく、月末にクラスの大人数で集まって八月生まれの子を合同で祝おうっていう話にまとまっていた。
それが良いと思った。そのほうがみんな楽しめるって。
無難に目立たなく過ごしたほうが私らしい。
私は自分が主役に向いていないことはよく分かっていた。
要はただなんとなく一人でいたかった。
家にいてもよかったし、本当に意味なんてなかった。
その時までは。
『ハッピーバースデートゥーユー ハッピーバースデートゥーユー
ハッピーバースデー Dear
──ちゃん ハッピーバースデートゥーユー』
よく知っている歌が流れて
マイク越しに若い女の人の声が数人聞こえた。
当然、自分宛じゃないことは分かっていたけれど
突然のことに驚いて顔をあげる。前を見れば、広場のイベントスペースでアイドルっぽいグループのライブが始まったいた。
さっきまでは何も開催されていなかったと思うけど、
ぼーっとしすぎていつから始まっていたのかもよく分からない。
アイドルとかはあんまり詳しくないし、気にしていなかっただけかもしれない。
バースデーの歌が終わり、ファンの人の「おめでとう」の声と拍手が聞こえた。
私はステージから目が離せなくなった。
「ありがとう!」っていう高くて可愛い声。ステージの真ん中にいる赤い衣装の人。
それが、リリアちゃんを知ったきっかけ。
私が一方的に運命だって思っている出会いだった。
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