第34話 去年のこと、そして今年のこと1

お泊まり会とお祭りが終わって数日。

七月の終わり。

結果から言えば、父と新しい母は仕事が忙しくてもうしばらく帰ってこられないらしい。

私は今の生活が気に入っているから、それはそれで都合がいいなって少し思ってしまったのは内緒で。


蛍ちゃんのお母さんに会ってはみたいけれど。

蛍ちゃんはどうなんだろうって思って、リビングで話している時に前から気になっていたことをさりげなく聞いてみた。

「まだしばらく二人だね」

「うん」

「蛍ちゃんのお母さんさぁ、うーんと、私のお父さんと結婚した人。仲、どう?」

「たまに電話かかってくるよ。良い人」

「何、話すの?」

「普通に。元気?って聞かれるから、うんって」

「そっかぁ」


さりげなく聞けていたかはともかく。

そっかぁ、良い人かぁ……って思った。仲が悪いわけじゃなくてよかったなって、安心するくらいしかできないけれど。



◇◇



そして、八月。

その日もリビングで、だけどその日はテーブルに向かい合った状態で

それはもうちょっと逃げ場がないなってくらい蛍ちゃんはハッキリ私を見てそう言った。


「前に聞いた時に八月って言ってたけど」


「うん……」


「先月も、だから八月だよぉって言ってたよね?」

「うん……」


「いつなの?誕生日」

「だから八月……」


「八月、八日……だけど」

さすがにこれ以上適当に流したら怒りそうだから私は言った。

まあ別に隠すようなことじゃないしいいんだけど。


「もうすぐじゃん! 言うの遅い。お祝いしよ」

「いや、いいよぉ」

「だめ!お祝いする!何もない日?」


実は誕生日のお祝いされるのってけっこう苦手だったりする。

相手のことを祝うのはぜんぜん楽しいし好きなんだけど。ちなみに蛍ちゃんの誕生日は聞いたらまだずっと先だった。


「当日、何か予定ある?どっか行ける?」

「……いやぁ。いいよ」


「何かある?」

「うーん、まぁ……、あると言えば……」


「何?……あ、ライブあったっけ?週末?」

「……あると言えば」


「……あれ?平日じゃない?ライブあったっけ?」

蛍ちゃんは少し考えたあと壁のカレンダーを見てそう言った。


シューティングスターのライブは基本的には土曜か日曜にある。

メンバーのほとんどが学生だし、夏休みとか長期の休みの時は出演するイベントの都合で平日の夕方とかにあったりもたまにするけど。


「そう、かも……」

「じゃあ遠く行くのは無理かな?私、何時集合なんだろ」


同じライブハウスに行くのでも、出演するほうの蛍ちゃんはリハーサルとか準備とかで

かなり早く家を出ることが多い。何時に集合かは本当に知らないから私は

「うーん……。いや、お祝いとかいらないよぉ」って明るめに言った。


「何?もういいや。携帯のスケジュール見てくる」


そう言って蛍ちゃんは二階に上がっていった。

ライブがあるとかないとか関係なく、本当に誕生日に何か特別なことをするのが苦手だった。

蛍ちゃんと出かけるなら別の日がいいなぁ。なんとなく。


そんなことを考えながら去年のことを思い出していた。

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