第33話 夏祭り5

それから一時間弱くらい。

鳥居の前で蛍ちゃんを待った。

ボーっとして待つにはちょっと長いかなって思ったけど、実際はそこまででもなかった気がする。いろいろと考え事をしていたからかもしれない。


それに通り過ぎる人を見てるのは飽きなかった。

友達、家族、恋人同士、いろんな人が通って行って、みんな楽しそうでこちらも幸せな気持ちになる。


今の私の状況がちょっとおかしいんじゃないかなってのは分かってた。

普通、妹とこんなふうに待ち合わせなんかしない。

でも会いたくて、会いたいって言われたのが嬉しくて、友達より優先してしまうくらい蛍ちゃんが好き。それが事実だった。



しばらくして蛍ちゃんから最寄りの駅に着いたって電話がかかってきた。

「迎えに行こうか?道分かる?」

「大丈夫。浴衣の人けっこういるから着いてく」


それから電話を繋いだままにして数分。

「あ、居た」

っていう声が電話から聞こえて、来るはずの方角を見ればすぐに蛍ちゃんを見つけることができた。


私たちは電話を切って合流する。

「待たせてごめん」

「ううん、けっこう早かったね」


大げさな感じで会う約束をしたわりには、あっさりした再会だなって少しおかしく思う。

人前で抱き合ったりなんかするわけないし、というか一昨日まで毎日会っていたしこんな感じなのは当たり前なんだけれど。



◇◇




花火まであんまり時間がないし、神社の中はけっこう人が多かったので

中には入らずに、近くの公園で花火を見ることにした。事前に花音ちゃんに場所を教えてもらっていた。

二人は、妹ちゃん来るなら一緒に待とうか?って言ってくれたけど、さすがに申し訳なくて断った。

お祭りの後は、花音ちゃんの家に直接帰ることになっている。

気を使わせてしまっていたのかもしれないけど特に何も言っていなくて

ごめんね、ありがとうって思った。



公園といっても広場に近い小さめの公園。それなりに人はいたけど混雑っていうほどではなく、私たちは空いていたベンチに座った。


「友達、ごめんね」

と蛍ちゃんが言った。

「ううん、私も会いたかったよ。一人、さみしかった?」


「うん……、ううん……」

「どっち?」

蛍ちゃんの曖昧な答えに少し笑った。可愛いなと思う。


「別に一人がさみしいとかはないよ。飛鳥ちゃん来なかったらほんとにお祭り一人でまわってもよかったし」

「それ本気で言ってたの?」

「でも、飛鳥ちゃんなら私の味方してくれるかなって思った」

「……うーん、そうなのかなぁ」

味方って言い方が少し気になったけど何も言わなかった。

蛍ちゃんに会えて私も嬉しかった。



「花火、ブログ載せようかな?」

蛍ちゃんは携帯を空にかざしながら言った。

「えー、誰と行ったの? って聞かれて面倒くさそう」


「お姉ちゃんだよ! って言うよ!」

「それはそうなんだけどさぁ」


「なんか最近よく、笑顔が増えたねってファンの人に言われる」

「うん、分かる」

「機嫌いいねってマネージャーにも言われたし。機嫌とか気にしたことないなぁ」

「えっ、無自覚だったの!?」



話していたら花火の音がして二人で空を見上た。

数時間前までは想像もしていなかったことで

あれ?夢なのかな?って一瞬思う。


そんな夏休みの始まりだった。

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