第31話 夏祭り3

花音ちゃんの部屋を出るときに、ふと携帯を見たら

蛍ちゃんからメッセージが来ていたのに気づいて

ちょっとだけ話してから神社に向かった。


『まだ塾?』


『もう終わったよー』


『お祭りいいな』


『いいでしょ』


なんでもないメッセージを少し送りあって数分後。携帯に蛍ちゃんからの着信があった。

もう神社はすぐそこで鳥居も見えていた。


「もしもし」


「……うん」


「どうしたの?」


ほんのちょっと前までメッセージで話してたのに電話がかかってきたので

何か用事かなとも思いつつ、要件は全く思い当たらなかった。


「……うん」

「うん? ごめん、今友達とお祭りに向かってて」


なかなか話を始めない蛍ちゃん。

二人は気にしている様子はなかったけど、神社に近づくにつれて人も多くなってきたし、あんまりゆっくり電話をしていられる状態じゃない気がした。


「ごめんね、後でかけ直すからそれでもいいかな?」

もうすぐ神社に到着するし蛍ちゃんには悪いけれどそう言った。急用じゃなさそうだし何かあったらメッセージのほうに送ってくれるだろうと思ってた。



「……うん」

「ごめんね、じゃあま──」


「ねぇ、私もお祭り行きたい」

「え?」

「そんなに遠くないし、そこ行っちゃだめ?」


「えっ!? 今から!?」


私がひときわ大きい声を出したからだと思う。

花音ちゃんと麻琴ちゃん、二人がびっくりした顔でこちらを見た。


「え、私、クラスの友達といるんだよ」

私はちょっと気まずくて声を小さくして言った。

「……知ってる」

「誰か学校の子とかと来るの?」

「ううん」


塾のあとはお祭りに行くよってことも家で話したような気がするけど、

その時は蛍ちゃんは何も言ってなかった。

学校の友達を誘って来る予定をたててたなら、それはそれで分からなくはないけど。


「会いたい。会いたいけど、無理なら一人でまわる」

「ええっ?」

蛍ちゃんが急に言うから私はまた大きい声が出そうなのをなんとか抑えた。


「いやいやいや、一人でとか無理でしょ。けっこう混んでるし危ないよ」


「じゃあ、会いたい」

「いやいや、もう明日には帰るよ」


そんなふうに話しながら歩いているうちに私たちは鳥居の真下まで来ていた。

二人はちょっと離れたところで私の様子を伺っている。

大丈夫かな?って思われてるのかもしれない。


「お祭りだったら夏休み中にあるやつ探すから、今度それ行こ?」


「嫌だ。今日がいい。別に一人でまわるからそれなら飛鳥ちゃん関係ないじゃん」


蛍ちゃんはそう言って譲ってくれそうにもない。


私はこれ以上二人を待たせておけないと思って

「本当に一人で来たらだめだよ」

とだけ言って電話を切った。


これから夜になるし中学生だし、ただでさえ可愛いのにお祭りを一人でフラフラ歩いたりしたら絶対だめだと思う。

蛍ちゃんが気まぐれなのは今に始まったことじゃないし、できれば聞いてあげたいけど

さすがに無理なこともあるよなぁって思いながら、私は花音ちゃんと麻琴ちゃんに合流した。

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