第29話 夏祭り1
「絶対頑張るから、絶対自慢の妹になるから」
あの日、一緒にコンサートへ出かけた日にそう言われるまでは
蛍ちゃんが義妹だってことは完全に忘れていた。
いろいろとそれどころじゃなかった。
今も特別、妹だって思って過ごしてるわけじゃない。
じゃあ何だ?って言われると困るけど。
あの日から別に私たちの関係は変わったりしていない。
シューティングスターのライブには今まで通り行っていたし、蛍ちゃんもそれについて何か言ったりしなかった。
けっきょくライブ中は、いちリリアちゃんファンとして普通に楽しむことにした。
チェキ撮りに行って嫌な思いをさせちゃった例もあるし、同情みたいな曖昧な気持ちで変に気を使わない方がいいじゃないかって今は思っていた。
それが正解なのか正直分からない。ライブに行くのをやめれば、いちばんいいんだろうけど。
それだけは絶対に嫌だった。
あの日、あの夜。
蛍ちゃんのことを特別に好きになったり、嫌いになったりするようなそんなできごとじゃなかったと思う。
蛍ちゃんを見る目は変わったりなんかしていない。
ただほんの少し意識するようになっただけで。
◇◇
あれからしばらく。夏休みが始まってすぐ。
「ねぇ、やだ」
部屋で荷物をボストンバックに詰めている私の横で蛍ちゃんはそう駄々をこねるみたいに言っていた。
明日から二泊三日、友達の家に泊まりに行くことになっている。
二泊三日と言っても同じクラスの友達の家だしそんなに遠くに行くわけじゃない。
このあたりで一番有名な塾の夏期講習に父がインターネットで勝手に申し込みをしていて、クラスで仲良い子も何人か申し込みしていた。
それでその中の一人が塾のすぐ近くに家があって、だったらついでにお泊まり会しないかって提案したわけで。
お泊まり会とかはあんまりするほうじゃないし、緊張もあるけど楽しみだったりする。
それに、夏期講習を頑張ればあとはライブとか好きに行っていいって父に言われている。
成績が落ちて、地下アイドルの追っかけはやめなさいって怒られるのだけは絶対に避けたいから、勉強もそこそこには頑張らないとって思ってた。
「近いんだし帰ってこれないの?」
蛍ちゃんはまだそんなことを言っていた。
「できないよー。同じクラスの子三人集まるからね」
「えー」
「蛍ちゃんは?勉強分からないとこあったら教えてあげてるよ」
私たちの関係に変化はないなんて嘘でこういう時に少し悩んでしまう。
蛍ちゃん進路は?なんて軽く聞けなくなってしまった。
私は蛍ちゃんの保護者になればいいんだろうか。それとも別の何かに……?
あの後しばらく考えても分からなかったんだから、今さら急に分かるはずなんかなくて。
とりあえず蛍ちゃんの成績を聞き出すことに専念した。
「いいよ、それは。こういうの。……こういうのが欲しいの」
蛍ちゃんはそう言ってまだ荷物に向かっている私に後ろから抱きついてきた。
「な、な、なになになに!?」
「二日もいないなら充電」
たまに、こうやって甘えてきたりする。
仲良くなれたのはいいんだけど、これってどういう意味なんだろうって少しだけ意識してしまう。
──私のこと好きになって。
蛍ちゃんはそう言っていたけれど、それってたぶん家族的な意味が大きいんじゃないかなって思う。
それは分かってても面と向かって好きだと言い合った相手が目の前にいるんだから意識してしまうのはどうしようもない。
背中から蛍ちゃんの体温が伝わってきて自分の脈が早くなるのが分かった。
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