第5話:クロネコ、復活する

5-①

 残念ながらあまりの衝撃で気絶してしまった私は、銀行の待合スペースで目を覚ました。身体は残念ながら大きな柱に後ろ手でがっちりと縄で拘束されており、左右を見渡すことくらいしか出来ない。


 なんとか自分のおかれた状況を把握しようと落ち着いて辺りをじっくりと見渡してみる。すると、どうやら何人かの銀行職員と共に、私は人質として銀行の待合スペースへと集められていたようだった。


 また、気絶してかなりの時間が経過してしまったのか…周囲はすでに警察に包囲されており、窓からは盛んに犯人たちへの説得が行われていた。


「ようやくお目覚めか?探偵さん?」

 ふと声をかけられる。


 顔をあげると、銀行の奥から黒いボストンバッグにぎっしりと札束をつめたクロネコさんが、ガタガタと震える若い男性の銀行職員と共にこちらにやってきていた。


………


「まさか、このオレの正体に気づくとはな。だが、一人でオレたちを捕まえることが出来ると思っているのは少し自惚れ過ぎだった。」

 そういってクロネコさんは待合スペースのソファーにどっかりと腰を下ろした。


 若い男性の銀行職員は、腰を抜かしてしまったのか、解放されるとその場に崩れ落ちてしまっていた。


 しかし、まさか…あの大人気漫画家のクロネコさんが銀行強盗を行うとは…この一ヶ月で何があったというのだろうか。


 まさか、『セーラーハート』の展開が思い浮かばず、ネタに困ってこのようなことを?それとも、金銭的に困窮してこのようなことを?

 だが、ヤケになってこんなことをしても何の得にもならない。

 私は彼を説得することにした。


「こんなことはやめるんだ。あなたに何があったのかはわからないが、自暴自棄になるんじゃない。」


 だが、彼は笑って答える。

「自暴自棄になどなっていない。これは計画通りだ。」

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