第3話:探偵、発見する

3-①

 25日。

 私はこのあたりでは一番大きな銀行の待合スペースで、朝からずっとクロネコさんを待っていた。


 ターゲットの特徴である、黒いパーカーで黒猫のバッグを持つ若い男性の姿を目で追い続けていたが、一時間待てど、二時間待てどターゲットは一向に現れない。


 何時間も待つ内に、私の目は徐々に乾き、イライラと何度も髪をかきむしってしまったせいで、髪の毛は爆発し、ボサボサになっていた。


 "まさか…私の調査が間違えていたとでもいうのか…?"

 窓口の営業時間が終了となる午後三時が近づき、私は諦めて腰を上げる…その時、ターゲットは遂に現れたのだった。


………


 私がずっと待ち望んでいたその人は、黒いパーカーに大きなボストンバッグを下げ、両手をポケットに突っ込んだまま、ゆっくりと銀行の受付窓口へと歩を進めていた。


「私でなければ、見落とすところだ…まさか普段使っているバッグから、大きなボストンバッグに変えていたとは…。

 だが、私の目をごまかすことはできない。しっかりと見えたぞ!鞄の内側にある、黒猫の刺繍が!」


 私は、彼の後ろに急いで近づくと、こう話しかけた。

「ようやく見つけましたよ…クロネコさん。」


………


 私が声をかけると、ビクッと彼は肩を揺らした。だが、すぐに何事もなかったようにこう言った。


「どちら様…ですか?」

 訝しげな目を向けて訊ねてくる彼に対して、私はボサボサの髪の毛をかきあげ、乾燥して痛む目を向けながら、どう答えたものかと考える。


 彼はわざわざ自分の正体を隠して執筆活動を行っている覆面漫画家。彼の正体をこのような公共の場でハッキリとバラすように告げてしまっては、今後の活動に支障をきたすかもしれない。


 私は極力オブラートに包む形で、彼にこう告げた。

「私ですか?私の名前は明智耕助…しがない探偵ですよ…世間を騒がせている真っ黒な子猫ちゃんを捕らえることしかできないだけのね…!」


 ようやく発見することができたヨロコビと大好きな漫画家に会えたというヨロコビで、少しおかしな言い回しになってしまったが、クールに伝えることが出来ただろう。


 だが、少し驚いた顔をしたクロネコさんは、すぐに笑みを浮かべると、落ち着いた声で「なんのことですか?」と、とぼけて見せた。


 なるほど。さすがは売れっ子の覆面漫画家だ…ここまで不意をつかれて、こうも落ち着いていられるとは。

 私は心の中で賞賛を送った。しかし相手が悪かったな。とたたみかける事にした。

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