――約束
私は漠然と苛立っていた。ようやく別れ話をする決意を固めたものの、別れる理由が理由なだけに告げるのが心苦しい。それでも踏ん切りをつけ、「話がある」と告げて、人が少なそうな無人駅の空港通り駅で降りる。辺りは薄暗くなりかけていて、駅の電灯が控えめに点灯していた。
「別れよう、やっぱり遥月が一番好きやから。何回忘れようとしても駄目だったから……」
後ろめたさから彼の目を見れず、俯く。
「卒業するまで、遥月ちゃんのことを好きでもかまわんよ。どうせ卒業したら、遥月ちゃんは秋田に行くんやし離れ離れや。でも、約束したやん、一緒に大阪行くって……。俺、おまえがおらんのに大阪行ってどうするんよ」
正面には憔悴しきった目があった。悲痛な声が、頭に重く響く。
「約束……したけどさ。ごめん、でももう別れてよ。私が今、一番そばにいたいんは遥月なんよ。あんたとおるより、遥月とおるほうがええんやもん。自分の気持ちに嘘ついてまで無理して付き合うん、しんどいよ……。お願いやから別れてよ……」
「ああ、俺も女の子だったらよかったんかな。俺、
「ごめん……もう良輔とは無理なんよ」
「なあ、俺が悪いんか? 俺がそんなに邪魔者か? おまえと別れるくらいやったら、俺死ぬから。死んだほうがマシやから」
彼は絶対に別れんから、別れたら死ぬからと繰り返した。
「別れんといて……」
涙を耐え、小刻みに震えながらの懇願だった。手は強く掴まれ、離してくれない。彼の意思のほうが強固なのは明らかだった。
頑として揺るがない良輔に根負けする形で、私は付き合い続けることになった。
でも、結局は別れたのだ。お互いに声を荒げて涙でぐちゃぐちゃになりながら、散々な泥試合をしたすえに。彼は別れてからも、私のことを離れた後ろの席から見ていた。もともと癖になっていた貧乏ゆすりが悪化して、ガタガタと不気味に机を揺らす。その音はわざとらしく私の耳に届き、虫の羽音を耳元で聞かされているかのような煩わしさがあった。
良輔と別れ、気持ちの整理がつき始めた頃、夜のバイトが終わったあとに遥月に電話した。気が付けば、自転車をこぎながら呆れるほど好きと連呼していた。
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