盲目

 夢に遥月が、何度も、何度も現れた。

 うちなる願望を絵に描いたような夢ばかり。

 夢での遥月はしあわせそうに、笑ってくれていた。

 ――ああ、もう無理だ。遥月を好きじゃないことにするなんて、無理なんだ。

 堂々巡りのすえに、ようやく私は諦めた。



 ――夏休み。宿題のデッサンをしに教室に来て、帰りにデザイン技術室に寄るとやっぱり遥月がいた。

 ふいに遥月が「パイレーツ・オブ・カリビアン観に行きたいなぁ」と、鉛筆を止めて吐く。彼女がそういった希望を口にするのはめずらしく、私のアンテナがここぞとばかりに反応した。

「じゃあ、一緒に映画観よ。な?」

 強引に押し切る形で約束を取り付け、私はにんまりしてみせる。


 しかし約束の日を前にし、待ち合わせのことを連絡してみたがいっこうに返信はなかった。当日になり、映画は見事にすっぽかされることになった。あとになって遥月から連絡がきた。約束を忘れて田舎のおばあちゃんのところに行っていたらしい。そのことを良輔にあっけらかんと喋った。

「なんで怒らんの」訝るように良輔が訊く。

 遥月だから怒る気にならないなんていえるわけがなく、さあ、わからんと濁した。


 私はそのまま、良輔との付き合いをやり過ごしていた。情が捨てれずに、もしかしたらまた気持ちが変わるかもしれないという淡い期待があったから。けれど良輔といると《触れたいのは遥月なのに、彼に触れられないといけないのか》という疑念が頭をもたげ始め、気持ちはみるみる薄れていった。



 ――秋。まだ生ぬるい風の残る頃、良輔と私はいつもの琴電ことでんに揺られていた。年季の入った列車は、鈍行でとろいくせにガタガタとやかましい。帰宅時間のため車両は二両から四両編成に増えているものの、二人とも座れずに突っ立っている。

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