修学旅行を機に、遥月に対する好きは友達としての好きだったり特別な好きになったりと、振り子のように左右に振れていた。それでも良輔との関係自体は順調だった。遥月と私は同性というのもあり、この気持ちはなにかの間違いだと思い込んだ。好意を自覚するたびに抑圧し、なんでもないふうを装う。


 三年になったばかりの春、鍵付きで書いていたブログの中身を良輔に見られたことで遥月に心酔していることを知られた。

 彼は顔面蒼白となり、信じられないという面持ちで詰め寄ってきた。それを憐れに思うと同時に、私がこうも人を狂わせてしまうのかとおののく。薬物でも切れたかのように狼狽する彼を眺めていると、私はどうしようもない悪人になった気がした。彼は私のために身骨を砕いて親を説得し、進学先を変えてくれたのに裏切ってしまったのだから。

 ――本当は、私だってこんな恋がしたかったわけじゃない。鬱陶しい思慕などなかったことにして、良輔を好きなままでいたかった。

「私、遥月のこと忘れるから」

 力なく笑いかけると、暗い眼差しのままで彼は安堵した。


 以降、私は微妙に遥月を避けるようになった。浮ついた心はじきに静まっていったが、かわりに遥月と対峙すると笑顔が引きつるようになっていた。すると遥月の顔も同じようにぎこちなく歪む――そんなちぐはぐな日々が過ぎるうちに、遥月はしなびかけた桃みたいにしぼんでいった。机に突っ伏すことが増えたせいか、萎れたガーベラのように背中がまるくなっていった。

 遥月の変化が目に見えるようになってやっと、親友を置き去りにし過ぎたことを悔いた。あべこべな態度はやめて、ふつうに笑って、ふつうに話していた二人に戻らなければならない。そう思った。


 それからごく平凡な日々が過ぎていった。遥月とはすんなりもとの友人関係に戻り、凪のような良輔との日常がやってきた。

 ただ――切々と迫る良輔の愛に対し、重さを感じ始めていた。窮屈な彼との関係から逃れるようにして、放課後にデッサンの練習を始めた遥月のところへ私は足を運ぶようになる。

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