えっ?
「……あの、とりあえず……」
東棟2階の空き教室。俺たちはそこへ移動した。
人が少ないとはいえ、流石にデリケートな話を教室でするわけにはいかない。
「さっきの話……なんだけど……」
夢咲さんは顔を俯かせ、両手でスカートの裾をぎゅっと掴んだ。
何か悩んでいるのか次第に端正な顔がくしゃくしゃになるまで歪んだ。
「えっ?あの………いや、言いたくないんなら良いんだよ。別に今じゃなくてもいいし」
何で泣いてるの?という言葉は喉を通らなかった。何で泣いてるかは気にはなるけど、重要じゃない。夢咲さんが泣いてる。その原因は明らかに俺だ。今はそれだけでいい。
「……………っ……あのっ……あのねっ……」
泣きじゃくりながら、必死に何かを伝えようとする彼女は、いつもの完璧超人、夢咲千里ではなかった。涙で顔をくしゃくしゃにしながら泣くその姿は、小さい子供のように見えた。守ってやりたくなった。抱きしめてあげたいと思った。もう彼氏でもない俺がするべきことではない。
「……っ!?」
だがそんなことを考えてる間もなく、気づけば俺は夢咲さんを抱きしめていた。震えが止まらない彼女の肩を優しくさすりながら、赤子をあやすように抱きしめた。初めは肩をビクッとさせ、何が起こったのか分からないようだったが、左手で肩をさすり始めると、さっきまでの震えが嘘のように静まっていった。
当たり前だが、落ち着いていたらこんな状況にならないわけで……。
「あ……あの、もう大丈夫…だよ」
「え?あっ!そうだよね。もう大丈夫だよね。」
冷静なって恥ずかしくなったのか、口元をプルプルさせながら、真っ赤になった顔を隠すように俯く。そして、言われるまで気づかなかった俺は跳ねるように驚き、即座に夢咲さんから離れた。
なんともいえないギクシャクした空気が流れる。唐突に居心地が悪くなった。どうにかしようと、とりあえず抱きしめたことを謝ろうと口を開く。だが、先に沈黙を破ったのは夢咲さんだった。
「ありがとう神崎君。おかげで落ち着いた。あと、取り乱してしまってごめんなさい。できれば忘れてくれると助かるなぁ」
「ど、努力するよ」
真っ赤に腫れた目で軽く笑いかける夢咲さんに動揺してしまった。しかしこればっかりは忘れられなさそうだ。
「それでね、さっきの答えなんだけど……ごめんなさい」
スカートがなびく勢いで90度に頭を下げた。
「その理由はまだ言えない……。」
「でも。いつか必ずわかる」
俺がその答えに納得できないと思ったのか、間髪を入れずに言った。その表情からは計り知れない覚悟が見える。
「あと……今もちゃんと、か、神崎くんのこと好きだから」
「え?それってどういう……」
「あ、ごめん。今日水やり当番だった。じゃあね!」
俺の方を振り返ることもなく、颯爽とかけて行った。
え?え??どゆこと?なんで?
俺は、頭の理解が追い付かないまま、好きだからという言葉が永遠と反響していた。
意識を取り戻したのは、授業が始まる2分前だった。
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俺を振った彼女が諦められない俺のことが好きな彼女 sy @syoyu-0422
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