急展開
夢咲千里
頭脳明晰、容姿端麗、スポーツ万能とまではいかないが、学年を超えて注目される美少女だ。そして俺の元カノでもある。【元カノ】なんて言葉をモテてる友達が使っているのを聞き、「俺もいつか使ってみてぇよ」っなんて冷やかしたことがあるが、こんな悲しくてむなしい使い方をするとは。
今は4限目の授業が終わり、昼休みに入ったところだ。いつも通り、大抵の生徒は学食に行くか、昼の部活に行くかで教室には4、5人だけが残る。
意外にも、午前中は特にいつもと変わったところはなかった。朝、友達と駄弁る時に、ちらちらと夢咲さんを覗き見ていたら、何度か視線が合ってしまったことぐらいか。目線が合ってもすぐに逸らされたので何を考えているかまでは分からなかったが、向こうから話し掛けてくることもなかったので、彼女にとっても俺と別れたという認識だろう。分かっていたが辛い。どうせなら今この場で別れた理由とともに俺をこっぴどく振ってほしい。あんな短時間で、前触れもなく、理由もわからず振られるくらいならそっちの方がましだ。振られた理由を聞こうにも聞けない。完璧超人の夢咲さんにも人には話したくないことの一つや二つはあるだろう。理由が知りたいなら聞けばいい?付き合って半年でまだ手をつないだことしかない奴にそんな勇気があると思うか?大体そんな勇気があるなら、一昨日振られた時点で直接確認してるだろうに。
「夢咲さん……」
「何か用かな?ゆ……神崎君」
「………!?!?」
「いや、えっとその」
誰にも聞こえない声で呟いたのに……。っていうかいつの間にか教室に夢咲さんいるし!?
驚きとともに、ズキンと胸が痛んだ。そういえば、別れる1か月前から名前で互いを呼ぼうと言っていた。俺は全然慣れないし恥ずかしかったので、努力するとだけ伝えていたのだが、夢咲さんは恥ずかしがりながらも、俺を名前で呼んでくれていた。呼び方なんてたいして変わらない。≪神崎≫と≪ゆうた≫。友達には大体名前で呼ばれるけど、気にしたことなかった。でも、夢咲さんに呼ばれる度、心が躍った。言い表せないくらい嬉しくて、恥ずかしかった。初めて呼ばれた時は、まともに返事できなかった気がする。それでも今は、ただの友達。いや、夢咲さんからしたら友達とも思ってないのかもしれない。それならば、俺も友達以下という設定を演じなければならない。これが最低限の振られた側の責任だろう。夢咲さんを未だ想って言ったなどとは口が裂けても言ってはいけない。
「ああ……俺の親戚に、夢咲……悟っていう年下の子がいるんだけど」
多少強引にはなったが、これでいい。なんとか誤魔化せる。
「ふーん。そっか。私てっきり私の事呼んでるのかなぁと思ったんだけど。違ったんだ…残念」
「……!?」
少し恥じらうように身を捩り、耳まで真っ赤になっている彼女はとても扇情的で魅力的に見えた。しかし同時に、かなり無理をしているようにも見える。元々ぐいぐいくるタイプの子じゃない彼女が、無理やり笑顔を作っているのを見るのはこれが初めてだ。
彼女に何の意図があるかはわからないが、ここまで無理をさせておいて、俺もこのまま誤魔化すわけにはいかない。
「…ごめん、さっきの嘘……本当はキモイって思われるかもしれないけど、夢咲さんと一緒にいれなかったから寂しかったんだ。察してるかもしれないけど、俺からも聞きたいことがある。…ふぅ………」
「何で俺じゃ彼氏として駄目だったのか教えてほしい」
目を固く閉じ、覚悟を決め、彼女の返答を待った。
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