第3話 はじめちゃん、はじめる。

「ロン 18,000」


「かあ! 負けた!」


 南四局2本場、三倍満の親かぶりを受け断ラスを宣告された私はオーラスに突っ張った下家からマンガンを和了あがり、先の倍満直撃で五度目のトップを飾った。


「強すぎや宮城みやぎほんまバケモンか!」


瀬尾せのおはトップなのに攻めすぎだ」


「んなもん突き放さんと追いつかれるやんけ。 相手は宮城やぞ」


「せやかて連続で放銃したんは瀬尾ちゃんのミスや~」


「うっさいどつくぞ美月みつき


 三人が一斉に話始める。 二人がかりで瀬尾さんいじるんはいつものことでほんまに仲がええ。


 私は宮城 小春こはる。 この辺では一番強いらしい、知らんけど。


 いつも手を引っ張られ場決めをさせてもらえず無理やり座らされてゲームが始まる。 始まってしまえば申し訳なさでうちが帰れんから。 


 最近はひょっこりにのまえさんがくることはなくなった。 理由は瀬尾さんやろう。 「麻雀がどへたくそなんはこんでええ」 私から言わせても確かに下手やけどそれはほんまに可愛ええ誤差やと思う。 なんか別の意味があるんやないかとも


「ほらさっさと続きやるでー」


「このまま連続で瀬尾ちゃんがラスるからほんま助かるわ~」


「おま、ほんましばくぞ」


「しばくんなら帰って~」


「はいよー。 なんでや!」


「始めるぞ」


 瀬尾さんと美月さん《ふたり》の会話を無視して不知火しらぬいさんがさいころを回す。 全自動やからどっか明後日の方向に飛んでくこともなくて安心や。


 出てきた目の通りに牌を配り始めてからやろか、いつも聞いてた眠くなる歌が聞こえてきた。


「最悪や……」


「今日も来んに賭けとったなあ瀬尾ちゃん」


「俺の勝ちだな」


 不知火さんが嬉しそうに瀬尾さんからオレンジジュースを受け取ってバッグにしまう、現場を目撃したところでドアが開かれた。


真打しーんうーち~とうじょうや!」


「やかましいわゆっくりあけろアホ!」


 瀬尾さんの言い分ももっともやけど、そんなんきにせんようにうきうきでこちらまでやってくるにのまえさんはやっぱり笑顔や。


「うちもまぜて!」


「今始めたところや席あらへん」


 と瀬尾さんが文句を言うタイミングで席を立つ。 


「打ってええで」


「えー! うち小春ちゃんと打ちたい!」


「せや、宮城はすわるんや」


「うち休憩したい」


 うしろから椅子持ってきて座ったからもう動かん。 こうなったらテコでもコチョコチョでも動かんからあきらめてくれた。


 にのまえさんの麻雀はいつも楽しそうやから好きや、後ろからみてたら瀬尾さんは下手くそすぎてイライラするらしいけどそんなことあらへん。 一つ教えたらそのつど吸収しとるんや、うちにはわかる。 うちと美月さんしか教えんからめったに吸収できへんけど、もったいないわ


「やばいでー今日のうちはほんまやばいでー」


「親なんやからはよ牌捨てろや!」


「これはキレすぎた瀬尾ちゃんが失着で三位になりそうや~」


「なら大穴のラスに一本」


「ジュース賭けんな!」


 さっきまで賭けてたんに


「ええかにのまえ、負けたら二度とここにくんな! 麻雀もすんなよ!」


「それはうちに勝ってからいってもらわなあかんなあ」


「いっつも負けとるやんけ!」


 やっぱりここまでいわれてめげんにのまえさん素敵やわ


 そうやって始まった東一局、にのまえさんの配牌を後ろから覗く


🀇🀇🀈🀉🀊🀋🀍🀎🀜🀝🀕🀖🀃🀅


 二向聴りゃんしゃんてんで有効牌を二つ持ってくることができれば聴牌てんぱいや、でも


 にのまえさんは高い手しか狙わん。 瀬尾さんをかなりへたっぴにしたような子や、迷わず🀜🀝🀕🀖のどれかを切るんやろなあ


 偏ったら少ないやつ、字牌は残して清一色ちんいつ混一色こんいつ


 そしたらエスパーみたいになんかを感じ取ったにのまえさんは振り向いて目を合わせるとすんごい嬉しそうに頬をにやけさせてこっそり右側のピンズ・ソーズの牌を指さした。


「小春ちゃんうちがこの辺捨てるとおもったやろ」


 今日は違うねんと大ぶりなモーションでにのまえさんは🀃を捨てた。


 当たり前のことかもしれへん、せやけどそれは大きな変化やった。


「いくで、今日のうちは一味違うねん」

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