5章

プロローグ


 三校祭。

 毎年セオス王国内に存在する三つの学校――すなわちセオス王立学校、聖カーヌーン学校、アマノ学園の三校が集まって行う学校対抗の武芸大会だ。……私的には魔芸大会のほうが正しいと思うのだが、まぁそこら辺は別に良いだろう。


 三校祭の日程としては6日間。トーナメント形式で、それぞれの学校の代表4人戦っていく形だ。


 また三校祭の開催は夏季休暇の直前である。

 なので必然的に三校祭の日にちが近くなってくると期末テストみたいな位置づけのテストが行われるようになってくる。


 このテストでもし基準以上の成績でなければ不合格。三校祭が行われている背後で、先生と共に学校で過ごすことになる。要は居残り補習だ。

 たとえどんな理由があろうと補習を受けさせられる。

 そしてそれは三校祭に出場する生徒であろうと例外ではない。

 絶対に受けさせられる。


 そういった背景があったため、ここしばらくは私も勉強漬けの毎日であった。何としてでも不合格は避ける。てか避けなくてはだ。


 おかげで刀に触ったりできるのは朝か夜。

 剣を振れるのも朝か夜となっていた。

 体の中で悶々と刀を振りたい欲求が暴れまくったが、何とか抑えた。時折手が震えたが気のせいだと思う。


 レオナのほうも流石にこの時期は絵を描くのも我慢しており、勉強していた。だが時折禁断症状なのか鉛筆を持つ手が震え、何か絵を描こうとしていたりしたのを私は見逃さなかった。


 はっはっは~。レオナも情けないなぁ~。この、ぐらいは……我慢しなくちゃ、だ、よ……。うん……がまん……しなくちゃ……。

 ……。

 ……。

 治まれ……治まれ……。私の手よ、震えるなぁ~。震えるんじゃない。

 うぅ……何だよレオナ。そんな笑うなぁ!



 閑話休題。



 さて話を戻すが、このテスト。

 実は非常に致命的な問題がある。

 私の場合、剣術や魔法基礎(座学)などはなんともなく余裕であるのだが、魔法基礎(実技)となってくると話は別。

 大変言いにくい。あまり言いたくはないのだが、実は私魔法が苦手だ。……いや身体強化とかそういう感じの魔法は別に問題なく使える。

 だが、回復や炎を出したり、氷を出したりなど。

 The・魔法という感じの奴らを使うのがとても、凄く、非常に苦手なのだ。

 どれくらい苦手だというと、炎を出そうとしたら、出すのには化け物5,6匹以上は倒せるぐらい時間がかかり、その上その結果出せる炎は人間の肌を温める程度のしょぼい炎だ。

 はっきり言って役立たずな炎。

 出そうとするより刀を振るったほうが効率が良いというレベルだ。


 また回復魔法に関してはこの前の合宿で見せた通り。

 血を止め、傷を何となく塞ぐのやっとといレベル。もちろん使おうとすると体を止めて、集中する必要が出てくるという、リターンに見合わないデメリット状態だ。


 なぜ身体強化とかは問題なく出来るのに、回復や炎を出すのが苦手なのかと言うと、恐らく中途半端な前世の記憶のせいだ。

 そもそも前世では魔法なんて存在しない。

 つまり体の傷を意識して回復させたり、手から炎を出すなんて芸当は行えるはずもない。なのでその印象というか、感覚みたいなのが、足を引っ張って、そういった魔法を苦手にしてしまっているのだ。

 身体強化とかが普通に使えるのは、その感覚が体を力ませるとか、筋肉に力を入れるなどといった感覚に近く、特段足を引っ張るようなものがないからだろう。


 そういうわけで私は身体強化以外の魔法が苦手だ。

 そしてこのままだと普通に成績がアウト。

 基準以下の成績を弾き出してしまう。

 そうなれば三校祭に出場するはずが、学校に残らされて補修を受ける羽目になってしまう恐れ――てか恐れとかじゃなくて、普通になってしまう。。


 魔法基礎の合格条件は回復魔法と何か魔法の使用。その2点だ。ちなみに何かの魔法に身体強化は含まれていない。誠に遺憾だ。身体強化も含んでくれていれば、問題なかったのに……。


 幸い私は回復魔法に関しては、大変お粗末なものではあるが、使えることは使える。成績としてはギリギリであるが、まぁひとまず今回に関しては問題はない。なので問題なのは炎だけだ。だがそれが一番の問題だ。はっきり言って感覚がわからん。意味わからん。


 このままでは折角の三校祭に行けなくなる。そう考え出していたときに一筋の光――救世主が現れた。

 それは何と何と、アロガンスたちである。


 私が頭を抱え、「もうやけくそだぁ! 摩擦で炎出してやるぅ!」とか考え出し、隣でレオナが腹を抱え笑っていたときに突然アロガンスたちがやって来た。


 そしてあのヒョロヒョロした覇気とか一切感じないビエンフーを中心に私に魔法を教えてくれたのだ。

 いや、まぁ、普通に驚き、内心「急になんだお前ら~」みたいなことを思ってはいた。思ってはいたが、言ってはいない。そこら辺はちゃんとしているのだ。

 まぁそれでも「何で急にこんな親切を?」とは尋ねた。

 するとアロガンス曰く、「自分たちを差し置いて三校祭に出場するのだ。そんな奴がテストで落ちて、補習で出れなくなるなんてことは許さん」とのこと。


 何はともあれアロガンスたちの協力の元、無事私はまともに使える魔法ができた。

 それは地面を隆起させる魔法だ。

 ……。

 ……。

 炎どこ行った?

 氷どこ行った?

 そんな言葉が聞こえてくる気がするが、少しだけ話を聞いて欲しい。

いや、私も頑張ったのだ。凄く頑張った。頑張って、頑張って、何とか炎を出したかった。

 だが無理でしたー。

 いや~いくらやっても炎が出ない。出てもしょぼい炎。そんなんじゃ到底合格になるわけがない。

だったら今度は氷にしようとなったが、それも悲しい結果。

 10分かけて生み出した氷が飴玉サイズってどういうことだよ。あっ、生み出した氷はひんやりしててこの時期にはピッタリな冷たさでした。



 アロガンスたちによる私の魔法修得は本当に大変であった。

 あまりにも大変過ぎて、アロガンスは何だか「こいつが……こいつが……超えるべき目標?」とうわ言を言い始めるし、フェルゼンは精神論を語りだす。ビエンフーに至ってはなんかいつもの覇気がない感じから一転、物凄い叫び声を上げながらキレ散らかした。

 レオナは腹を抱えて笑い。

 ティミッドは目の前の光景に「あわわわ……」と戸惑う。

 地獄絵図のような空間であった。

 えっ? 大変なのは主にアロガンスたちじゃないのかって?

 いやいや私だって大変なんだから。何回も何回も魔法を使うせいで精神的にも肉体的にも疲れたし。



 まぁひとまずそんな地獄絵図の果て、その果てに、最終的に地面の隆起が良いのではということになった。この地面を隆起させる魔法は、簡単なものだと地面をボコッとさせ、複雑化すると地面の土を操る――階段だったり、腕みたいに動かしたりなど――という魔法だ。

 なぜこれが良いとなったかと言うと、何十と叫び声を上げた末に私は魔法で何かを生み出すというのが非常に苦手という結論が出て、だったらすでに存在するモノを操作する魔法ならばとなったからだ。


 そしてその考えが功を奏し、なんとも呆気なく私は地面を隆起させる魔法を習得したのであった。修得までにかかった時間は何と驚き、驚異の2時間。今までの苦労は何だったんだという感じだ。


 ちなみに長時間かけて炎を出そうとしていたのは、炎を扱う剣士ってカッコいいなぁ~と思ったからである。

 それを話したら、アロガンスたちは呆れ、レオナは笑いながら肩を叩き、ティミッドは目を輝かせていた。

 みんなの反応が良くわからん。

 だってカッコいいじゃん。炎を使う剣士。

 剣の軌跡をなぞる様に炎を操ったり、自分の出した炎の中から飛び出てくる。見栄えが凄くカッコいいし……まぁ雨の中でのバトルに比べたら全然だけど。





 まぁそんなこんなで見事魔法を習得した私は、無事魔法基礎(実技)のテストに合格。補修のせいで三校祭に出場できないという最悪の事態は避けられた。


 さぁて、続いてはお待ちかねの三校祭だ。

 どんな強い人がいるのか、もうすでに楽しみで仕方がない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る