絵描きさんは義理堅い②


「だけど追跡って言ったって……どう追跡するんですか? その、レオナさんが……どこにいるかもわからないのに……」

「う~ん、どうしよう?」


 実際問題。それが非常に重要&致命的であった。

 そもそも私は朝レオナを見つけられなかったため、ティミッドと共に食堂にいたのだ。朝見つけられなかったのに、急に見つけられるなんてことはそうそう起こりえない。


「多分美術室の出禁はまだ続いているだろうし……」

「出禁?」

「うん。出禁。レオナ、美術室の画材を使い過ぎて出禁になっちゃったんだって」

「あわわわ……そ、それは……なんとも……すごい? ことを」

「まぁ、凄いよね~。出禁になるほど。そんなに使うなんて。そんだけ熱量があるってことだし」


 まっ、そう言う感じの熱量というのはそう簡単にあるわけはないだろうけど。


「……わ、私も何か……頑張らないと……」

「うん? 頑張るって? あっ、もしかしてついに私と戦っ――」

「えつと、そ、それは、ごめんなさい……」

「ありゃ残念」


 ティミッドが申し訳なさそうにして言ったのを聞いて、私は静かに肩を落とした。

 まぁティミッドのタイミングって言ったのは私だし。ティミッドの準備とかが整ってからとか言ったのは私だから、そうウダウダは言ったりしない。そこら辺は弁えている私なのだ。


 う~ん……それにしても、レオナは何処にいるだろうか。

 適当にあちこちを闇雲に探しても、見つかんないだろうからなぁ。あっ、だけどもし学校の外に行ってた場合だと無理か……。いや、多分外行ってるときはこの間の画材屋だと思うけど、そうじゃなかったときの労力の消費具合がヤバすぎる。

 てか仮にその場合だとしてたら、あまりレオナの後を追いかける今がなくなってしまう。

 私が後を追いかけて知りたいのは、新しい画題であるのだから。


「……」


 そうなってくると今日のレオナの行動としては、学校内にいるというのが良い。そっちなら高確率で、


「あ」

「ん? どうしたの」

「えっと、レオナさんって茶髪の子ですよね」

「そうだね」

「凄い癖っ気ですよね……」

「そうそう」

「えっと、じゃあ見つけました」

「本当ッ‼」

「は、はい」


 そう返事をしながらティミッドが指さした所――廊下の先。そこにレオナはいた。いつも通りの制服姿で何かを抱えているようであった。


「ナイス! ティミッド!」

「ありがとう……ございます」


 ティミッドの照れたような声を聞きながら私はレオナのほうへ素早かく歩いていく。

 そこそこの距離が離れているおかげで、レオナが私たちに気づいたという様子はない。


「さぁ~て。いったいどこの誰かなぁ~。レオナを誑かしたのはぁ~」

「えっと誑かしたと決まったわけでは……」

「う。……そうだったね。誑かしたかもしれない人だね」


 私は言葉を訂正しながらレオナの後をつけていく。

 レオナは私たちの存在には一切気が付くことなく、廊下を歩いていく。その迷いのない進み方からも、目的なく彷徨っているとかいうわけではなく、確実に目的地があり、そこへ向かって進んでいるというのが分かる。


「う~ん……後ろからだから顔が見えないなぁ……」

「持っているのは……本? ですかねぇ……?」

「本かぁ……。レオナが本を読むなんて珍しいな。

 レオナなら大体はキャンバスかスケッチブックを持ってるからなぁ」


 そうなると持っているのはレオナの私物ではない……いやそう決めつけるのは早計か。まだ何も確定していない。ただの推論だし。


「だけど……嬉し、そうですね」

「うん。まぁ……嬉しそうだね」


 ティミッドの言葉に、私は思わずそう返した。

 いや、まぁだって。そうとしか言えない雰囲気なんだもん。

 だってさっきから何だか髪の毛が独立した意識を持っているかの如く、楽し気な感じで動いているのだ。それに心なしか、スキップで歩いているような気もするし。

 あんな反応、私も結構一緒にいたりしたが、あまりお見えになったことはない。


「そんだけ会いに行こうとしている画題が好きなの?」


 うぅ……。

 そう思うと何だか妬けてくる。別に誹謗中傷というわけでもないし、確定したわけでもないし、何ならまだ妄想の域ではあるが、それでも何か妬けてくる。


 そうやってレオナを追跡していると、彼女は校舎を出て、研究棟へと入っていった。


「研究棟? なんだ? こっちに目的の人がいるのか?」

「う~ん……もしかしたら人、ではないかもしれません……よ」

「……確かに。それはあり得るかもしれない」


 この研究棟は確か、魔道具とかの研究を主に行っている所だったはずだしなぁ。そうなるとここで造っていた、もしくは研究していた魔道具の姿に惚れ込んだとか、そういうパターンもあるかもしれない。


 うん。レオナならあり得る。

 そもそも私を描きたいって言ったのも、私の姿にビビッと来たからとかそんな感じだし。

 もしかしたら私がいない5日間の間で、たまたま偶然それを見つけてしまい、そっちに惚れ込んだとかそんなことかもしれない。


「ま、魔道具に負けるなんて……」


 ううぅぅぅ……それはなんとも屈辱的だ。

 妬ましいとか通り越して、笑えてくる。


「えっ、えっと、大丈夫ですよ。まだ負けたと決まったわけじゃないですし」


 ティミッドはそう優しくフォローしてきてくれるが、焼け石に水。あまり効果はない。


「きっと何か用事があるだけかもしれませんし」

「用事?」

「はい、用事です。ほら何か、ありませんか?」


 用事。用事ねぇ。

 う~ん……レオナは別に絵を描くのに魔道具は使ったりしないタイプだからなぁ。だからそう言う画材としての理由ではないだろうし……。

 ……。

 ……。

 うん? 魔道具。あれっ、なんか忘れてたような……。えぇ~と……何だったか……。


 私が何を思い出しそうになったとき、レオナがある一室に入っていった。

 私たちもその後を追って、急いでその部屋の前に駆けていく。


「『個人研究室』?」


 部屋の入り口に書かれていた札にはそう書かれていた

 個人研究室とは、この学校において、生徒が個人で研究実験を行う際に使用することができる部屋である。あちこちに建つ研究棟の中には必ず二部屋以上存在しており、中では完全に占領状態にしている先輩もいるとか。


「何か聞こえる?」

「う~ん……ちょっと聞こえません……」

「だよねぇ~」


 私とティミッドは二人して扉に耳を当てながら、中の音に聞き耳を立てていた。だが情報漏れ対策&爆発などの安全対策のために、その部屋の壁と扉はかなり分厚く、音がほとんど聞こえてこない。

 魔力で聴覚を強化しているにも拘らずだ。


「う~ん……中に入るってわけにもいかないだろうし……」


 完全に手詰まりである。

 この部屋の中で私が一番知りたいことが知れるはずなのに、それが見えないし、聞こえない。

 これではレオナのことを探るというのができない。


「ちょっとそこ2人」

「「⁉」」

「部屋の前で何をしているのかしら」


 聞き耳を立てるのに夢中で某名探偵のように、近づいていた人間に気が付かなかった私たちは思わず肩をビクッとさせながら声のしたほうを見た。


「あれって……ウイちゃん?」

「先輩?」


 そこにいたのはこの前の合宿の際にいた、そして私と同じく三校祭に出場する一人である先輩であった。


「それにその髪はティミッドちゃんか。

 2人して、どうしてここで聞き耳を……あぁそう言うことね」

「?」


 先輩は納得したような表情になると意地わるそうな顔をしながら私たちの背後に立った。


「ふふ。こんな所で立っていないで中に入りな」

「えっ、あっ」


 そして勢いのまま個人研究室の中へ押し込まれた。

 私は危うく倒れてしまいそうになりながらも、寸前で堪えながら中に入っていった。ティミッドのほうは危なっかしい感じだったので、私が手を伸ばし、支えたことで、無事倒れることはなかった。


「ふぅ……」

「あれ、ウイ?」


 ティミッドを片手で支えていた私にレオナが気が付いたように声を上げた。

 それに釣られ私は顔を上げた。

 個人研究室の中はあちこちが本や書類だらけ。薬品の入った瓶や様々な魔道具が無造作な感じで置かれており、若干危なっかしいい。

 そしてそんな部屋の窓際の方にレオナは座っていた。

 その手にお面を持って。


「あっ」


 そこでようやく私はレオナにお面を預けていたことを思い出した。

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