第25話


「じゃあ私はここいらで失礼するにゃよ。2人とも、残り時間もしっかり頑張るにゃ」

「もちろん頑張りますよ~」


 あんだけ化け物を倒したということで、ここら辺で終えて良いかもしれないが、ちょっとまだ昂ぶりが収まりきっていないし、もう一頑張りと行ってみる。


「はい。えっと、あ、ありがとう、ございました……」

「んにゃ。んにゃ。良い返事にゃ……あっ、そうそう。ティミちゃん」


 モーリェはティミッドを見て、何か伝え忘れたことがあったのかそう言った。


「な、なんでしょう?」

「ティミちゃんには後でちょっとだけ聞きたいことがあるから、学校に戻ってからでいいから、私の所に来て欲しいにゃ。最低限、事情とかは把握しとかないとだからにゃ」

「あ、はい。わかりました」


 ティミッドの返答を聞くと、モーリェは「良し良し」というでも感じに頷いた。

 ちなみに今更ではあるが、モーリェの猫耳(髪の毛をガッチガッチに固めたもの)は雨で濡れたせいか、若干崩れかけていた。


「じゃあにゃぁ~」


 そしてモーリェはそう言うと私たちに背中を向けて合宿場のほうへ歩いていった。

 私はその後姿を見送りながら、ふと思った。


「そう言えばティミッド」

「は、はい?」

「私を殺そうとしたのはお父さんに言われたからって言ってたよね」

「はい……そうです……」


 ティミッドは言葉を暗くさせながらそう答えた。

 多分ティミッドにとってお父さんという存在はあまり語ったりしたくない存在なんだろう。そう思った私は、しっかり言葉を選びながらティミッドに話しかけた。


「えっと……言いたくないないなら、別に言わなくても良いけど……。なんでティミッドのお父さんは私を殺そうとしたの?」

「えっ、えっと…………」

「あぁ、別に言いたくないなら無理しなくていいから。ちょっと気になっただけだから」


 まあ大方アマツカエ家っていうのが凄く嫌いだとかそんな所で、今回そういうのの度が過ぎて、娘に私の殺害をさせようとしたとかそんな感じだろう。


 そんな風に予想を立てていると、ティミッドがゆっくりと話し始めた。


「詳しくは……詳しくは知らないんですけど……」

「うん」

「組織の……組織の指示とか何か言ってました……」

「組織?」

「はい……」


 組織……組織ねぇ……?

 予想からだいぶ外れた答えに、私は思わず首を捻った。


「組織。そしき。ソシキ。SOSIKI。」


 う~ん……その組織ってのが何で私を殺そうと?

 ……てか組織っていうことは、今回のって個人で起こしたことじゃなくて、何かをバックに起こしたことってことになんないか? ちょっと思ったよりも、ヤバい感じだったり……。


「ちょっと待って」

「ひゃっ⁉」「うぉッ⁉」


 気が付くと私の真横にモーリェが立っていた。

 急に現れたことに驚き、私とティミッドは思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。


「びっくりした~。……会長、まだ行ってなかったんですか?」

「うん。ちょっと聞き逃せない単語が聞こえて」


 そう言ったモーリェの表情は何だかいつになく真剣な感じであった。短い期間ではあるが、それまで見てきた中で一度も見たことがないくらい、真剣な表情だ。

 そしてそれに加え口調にも何だか違和感がある。

 凛々しいというか、冷たいというか……何だかできるキャリアウーマンみたいなそんな口調だ。……だけどそれ以上に何だか違和感がある。


「それよりティミちゃん」

「えっ、あっ、はい⁉」

「さっき組織って言ったよね。お父さんが組織の指示だって」

「はい。い、言いました」

「……」


 ティミッドの言葉を聞くとモーリェは手を顎にやって考え込んでしまった。


「あの~会長?」

「……――――……――」

「えぇ~……」


 モーリェはブツブツと何か呟きながら考えこみ、私の声が耳に入っていないようであった。

 このままモーリェを無視して化け物狩りを再開しにいくというのは、かなり失礼そうだし。かと言ってティミッドとモーリェを置いて、私一人だけで再開というのは何だかなぁ。モーリェが何を考えこんでいるのか気になるし……。


「ティミちゃん」

「はい……?」

「君のお父さんがこういう言葉を話したりしたのを聞いたことがある?」


 あっ、さっきから感じてた違和感の正体がわかった。

 モーリェの口調が変というのもあるけど、それとは別に、いつも語尾に付けている取って付けたような「にゃ」がなくなっているからだ。


「『裏神』っていう言葉を」

「ウラカミ……?」


 私はモーリェの言った言葉を続けて言った。

 ティミッドはその言葉を聞いて少し考えこむと、すぐに思い出したようにこう言った。


「多分……あります……。お父さんが酷いことを……やってるときに、よく言ってた気がします……」

「⁉」


 するとモーリェの瞼がピクっと上がった。そして纏っていた空気が変化した。何か重いような、そんな空気に。

 ティミッドはその空気が苦手なのか若干身震いをしてしまっていた。


「どうしたんですか会長? そのウラカミって何なんですか?」


 一方の私はというと、単純に「ウラカミ」という言葉の意味がさっぱりなものだったので、ある意味空気を読むことなく、そう尋ねていた。


「……裏神。裏表の『裏』に、神様の『神』で『裏神』」

「ふぅ~ん。それでその裏神ってのがどうしたんですか?」

「これはある組織の名前なんだよ」

「ある組織?」


 モーリェの話す雰囲気からして、かなりヤバい組織なんなんだろうか……?

 まぁ~私には今の所関りとか一切ないと思うけど。……う~んてかヤバい組織ってことは強い人とかいるのかなぁ?


「そうある組織。それもこの間学校へ襲撃を仕掛け、その影で第一王子殺害を企てた者たちの所属するところ」

「えっ?」


 マジ?

 えっ、マジすか?

 それってつまりドローガたちのいる所ってこと?


「今ウイちゃんが想像している通りだよ」


 モーリェはまるで私の考えを見透かしたかのようにそう言った。


「そもそも裏神って組織は、結構前から存在は確認できてたんだけど、その全容は一切不明。ひとまず恐ろしく強い奴等が所属しているとかそんな感じなことぐらいしかわからないんだ」


 強い。

 強い奴等がいっぱいかぁ~。

 それは何だか魅力的……って、あれ? だけど待て。ちょっと待て。


「ん? だけどなんでその裏神って所が私を殺そうと? やるならあの襲撃のときにやれば良かったじゃないですか」


 そうだ。わざわざこんな風にアロガンスと私とで分ける必要なんてない。てかあのとき私を餌にウルトクフを呼びつけたんだから、その勢いでしっかり私も殺しとけばよかったでしょ。……まぁもしそうなってたとしても、私は死ぬつもりはないけどさぁ。

 だが、それにしてもだ。どう考えてもそっちのほうが効率良いし、確実性もあったりする。意味が良くわからない。

 そしてそんな風に考えていたのは私だけではなく、モーリェも同様のようで、本当にわからないということで首を捻っている。


「それは私も良く分からない。なんでこんな回りくどいことをしたのかは。

 ただ、この裏神って組織はいつもこういう風に回りくどいことをしている。だからある意味ではいつも通りとも言える……」


 それはなんともはた迷惑ないつも通りだ。


「今回のことはちょっと私の一存で隠しきるってのはマズそうだ……」


 モーリェは重たそうに口を開きながらそう言った。


「ひとまずティミちゃんは私と一緒に学校に戻るよ」


 そしてすぐさま全身に魔力を纏わせ、身体強化を行い始めた。


「えっ、あ、わ、わかりました」


 ティミッドは突然の急展開に付いていけていないようで、頭を回していた。


「ウイちゃんのほうは引き続き、化け物狩りを続けても良いし、止めても良いから」

「えっ、あ、はい」


 そして急展開に付いていけてなかったのは私も同様であった。


「じゃあティミちゃん。行くよ」


 モーリェはそう言いながらティミッドの腰に腕を回して、担ぎ上げた。モーリェとティミッドとでは結構な身長差があるはずなのだが、そんなものはモノともしていなかった。

 そして勢いよく地面を蹴ろうとしたその間際、


「あ、あの会長‼」


 私は寸前のところでモーリェを呼び止めた。


「なに?」

「えっと、ティミッドは大丈夫ですよね。捕まったりとかしないですよね」


 私は結構な大事でありそうな雰囲気から、さっきモーリェの言った「ティミッドは捕まらない」といことが、本当に大丈夫か不安になっていた。

 これでもしさっきの言葉がひっくり返ってでもしたら、相当困る。


「大丈夫……とは言い切れないかな……。さっきまでは個人の暴走と考えてたから、なかったことにってできたけど。裏神が関わってるとなると、もしかしたらがあるかもしれない」


 マジか……。

 なっちゃうかもなのか……つまりはそのぐらいヤベェ所なのか、その裏神って所は。


「そんな顔しなくていいから」

「えっ」

「凄い不安そうな顔だよ」


 どうやら私は相当不安そうな顔をしていたみたいだ。

 私は顔を振って、表情を無理やり直した。


「大丈夫。私がしっかりと何とかするから。だからティミちゃんも、ウイちゃんも安心してて」

「はい」

「は、はい……」


 私とティミッドはそれぞれそう言った。なおティミッドのほうはモーリェに抱えられているせいで、若干シュールであった。


「よし。じゃあ行くから。ティミちゃん。舌噛まないように気を付けて」

「わ、わかりました」


 そしてティミッドを抱えたモーリェは地面を蹴って、その場から消えていった。そのあまりの威力によって、地面は抉られ、くぼんでいた。さっきまで降っていた雨によって泥と化していたため、土煙とはならなかったが、代わりそこら中の木へ泥が飛び散っていた。


「……」


 その場に一人残された私は生まれたくぼみを眺めながら突っ立っていた。


「……はぁ……」


 心の中には不安が満ちかけていた。そのせいでさっきまであった、戦いへの昂りはすっかり冷めてしまっていた。

 化け物狩りの時間はまだ1時間ぐらいは残っていそうではあったが、とてもそんな気分ではなかった。


「……」


 私はゆっくり歩きながら、合宿場へと戻って行った。

 その間何匹か、化け物にであったが、特に苦もなく、昂ることもなく、倒した。



 そうして私の化け物狩りは終わった。

 私の討伐数はブッチギリのトップであった。

 そのおかげで三校祭出場ほぼ確定。あとは学校からの承認待ちとなった。

 しかし、私は喜んだりすることなく、心ここにあらずという状態で、ボ~っとしていた。



 4泊5日の合宿。

 これにて終了。

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