第12話
さてここからの行動だが、どこに行くか……。戦うのは当たり前。問題はどこで戦うかだ。
何も考えず学校中を駆けていれば白装束の方から寄ってくるだろうけど、それだと戦える白装束の技量は玉石混交。さっきと同じ若干の無双状態となる。
やはりそれでは物足りない。やるならしっかりと強いヤツと戦うのが一番昂る。
それにだいぶ時間が経ったため、そろそろ騎士団が白装束たちを制圧しに来てしまうのも時間の問題だ。
さっきと同じ感じの走り回るだと、多くの白装束と戦えるが、時間がかかる。どう考えても途中で騎士団がやって来て、制圧を開始してしまうのだ。
数は多い白装束。その数で学校の防御は突破したが、流石に戦うことを専門に鍛えられた騎士団が相手となると有象無象の烏合の衆。石の中に玉が混じっていようと関係ない。徹底的に制圧していくだろう。
そうなると私が戦う白装束も減ってしまう。もしくは良いところで邪魔……じゃなかった騎士団が助けにきやがってしまう。そんなことされると私としては欲求不満。発散不足となる。
ならばどうするかだが。
やっぱりここは狩り場所を一か所に決めそこで戦い続けるというのが良いだろう。
これなら途中の移動の手間が省けるから時間短縮して戦っていられる。
ただこれにも問題はある。例えば途中でその辺りの白装束を狩り尽くしてしまう。そうなると自然と移動することになる。いちいち細かくせっかちなのかもしれないが、なんとなくその移動が勿体ない。移動するよりは戦いたい……。
ほかの問題と言えば狩り場所にいるのが玉ではなく石ばかり、てか石しかいないという場合だ。これが一番最悪である。絶対に途中で物足りなくなってくる。確実に途中で冷めてしまう。
だからこそ向かうべき場所はしっかりと考えなくてはならない。
正面門付近は意外と白装束が少ない。数のゴリ押しでどんどん奥へ押し込んでいる形であるから当たり前ではある。そう考えると正面門の方ではなく奥の方に向かうべきだろう。
奥の奥。一番白装束たちが押し込んでいる辺りか……だが奥過ぎても多分良くない。最前線辺りは多分一番戦いは激しく、数は多いだろうが、石も多い。
それに先生たちとかも多いはずだ。先生ははっきり言って、強い白装束と戦う私の楽しみの邪魔になる。横槍とか入れられる。それは勘弁だ。
強い人が居そう。
先生たちが少ない、もしくは積極的に戦っていない。
そんな場所となると、奥過ぎず、前過ぎない場所。
白装束たちの攻めに耐えて籠城している……そんな場所が良い。そんな場所なら強い人がいる確率は高そうだし、籠城しているということは防衛メインでガッチガッチに守りを固めていたりしているはずだ。
私の考える条件に一致する。
問題はそんなところがあるかだ。
私が最初いたのは前の前、正面門がはっきりと見える美術室だ。なので奥の方がどうなっているかというのが把握していない。実は学校側が反撃に出ているかもしれない。
「よし……レオナ行くよ」
「ガッテン承知!」
私はそこまで考えると急いで移動を開始した。
ここであれこれ考えているよりはさっさと行動を開始した方が早い。それに時間が勿体ない。
速度はさっき以上に出して駆けていく。
その速度のせいで背後に付いてきているレオナは若干遅れ始め、距離が開き始めていた。絵を描くのも止まり、付いていくことに集中していた。
「ちょっ! 早い! 待ってよ!」
背後からはそんな叫び声が聞こえてきた。
レオナに合わせスピードを落とすのは何か勿体ないし、かと言ってレオナを置いていけば良い絵を描いてもらうことが……。
私は一時停止、進行方向を反転。レオナの方へ戻り、レオナのことを「よいしょ」と抱え上げた。
「ふぇ!」
レオナは急のことに驚き変な声を上げたが、私は無視。さっさと身体強化をして駆けだした。
人一人を抱えていることで少しだけ走りずらさというものはあるが、問題はない。これなら普通に駆けていける。
私は一速、二速と少しずつ加速していった。
「よしこれならスピード出してもいいでしょ」
「そうだけど、先に言って! 抱えるなら抱えるって!」
「ごめんごめん!」
私はそう反応を返しつつ、どんどん加速していった。
「舌噛まないようにね!」
そして目の前にそびえ立つ校舎に向かってジャンプした。レオナは私がしようとしていることにすぐ気づき、舌を噛まないように口を閉じた。
「……よいしょ!」
飛び上がった壁にある装飾によりできている段差に足を入れ、そこからさらにジャンプ。
「ほっ!」
さらに上に上がり、そこの装飾の段差に足を入れ、再びジャンプ。
それを次々に行っていく。バランスを崩し、落ちてしまわないように段差に入れて飛び上がる。
抱えられているレオナはキャンバスを落とさないようにギュッと抱え込んでいる。
校舎の屋上にはすぐに到着した。
高く飛び上がるというの何回かやったが、流石に校舎の屋上までひとっ飛びという芸当はできないので、回数を分けて昇っていった。
「ふへぇ~…………」
レオナは今の屋上までの飛び上がりに若干疲弊していた。
私は屋上でいったん休憩――なんてことはせず、すぐに動き出す。
そしてそこから門の反対側を見渡した。
どこもかしこも黒い煙や爆発音。人の大声が響いている。
私は見渡しながら、自分の条件に当てはまる場所がないか探した。
「あった」
条件通りの籠城をしていそうな場所はすぐに見つかった。
岩が研究室を囲うようになっており、それを白装束たちは壊そうと魔法をいくつも放っている。その魔法はどれも強力なものだ。強い人がいるのはほぼ確実だ。
私は口角を上げ、ニヤッとする。そして屋上から飛び降りた。
「飛び降りるからまた気を付けて!」
「だから先に言ってぇぇぇぇ‼︎」
そんな叫び声と共に私とレオナは地面に接近していく。このまま何もせずにいれば身体強化をしているとしてもひとたまりもないだろう。
私はレオナを片手で抱え、空いた右手に抜いた刀を持った。
「はあっ!」
私は刀を勢いよく――目にも止まらない速さで振り下ろした。それにより風圧が発生。私たちの落ちる勢いを若干軽減する。だがまだ足りない。
私は連続で刀を振る。
風圧が何度も発生。
するとだんだんと勢いが軽減されていった。
そしてあと少しで着地する、そのタイミングで渾身の振り下ろしをした。
風圧は地面と衝突。表面を削り、土煙を上げる。
ドンっ!
衝撃音が広がり、さらに土煙を巻き上げた。周囲の視界が土煙に覆われる。
私とレオナは思わずせき込んだ。
「ゴホッゴホッ……め、メチャクチャよ! キャンパスが汚れちゃうでしょ!」
「ゴホッゴホッ。あ……あぁ、ごめん」
「ごめんじゃないよ! ああもう。土を払わないと……」
レオナはそう言うと私から降りて、キャンパスに付いた土を払っていった。
私は少しミスったなと思いながら、すぐに走り出せるように準備をしつつそれを見ていた。
「もう大丈夫?」
「うん……大丈夫だね……」
私は土を払い終えたレオナを抱え、走り出そうとした。
そのとき――
* * *
「あーめんどくせぇ……。目標を逃したときの備えと騎士団が到着したときの合図係ねぇ……あ〜本当にめんどくせぇ。そんなのやるよりあの狂人共に紛れて暴れた方がよっぽど有意義だ……」
白装束に身を包み、通常のサイズに比べ明らかに巨大なノコギリを引きずりながら、その男は歩いていた。
「ここらにはもう人っ子一人いねぇしよ……」
そう言って男が引きずるノコギリは地面を削り、赤い線を引いていた。
土の色ではない。
ノコギリに付いている血で染められたものだ。
そのノコギリは真っ赤な血――それもまだ新鮮な血をべったりと付けていた。
その男――ドントが今日何人をその凶悪な獲物の餌食にしたのか……それはわからない。だが確実に言えるのは餌食になってしまった者は既に命を失っているということだけだ。
「誰か来ないかねぇ〜」
ドントがそう呟いたとき、
ドンっ!
「あっ? ……なんだ?」
何かが地面に激突したような音が響き渡った。
ドントが音のする方を見ると何やら土煙が起きていた。
「な〜にか退屈しのぎになることかねぇ〜。まあ、騎士団の奴らは要らないがな」
そう言いながら、ドントは土煙の方へ歩いて行った。ノコギリはズルズルと引きずられ、赤い線を引いている。
そこには――
* * *
校舎の裏でウイたちとドントは目を合わせた。
ドントのノコギリが地面を離れた。
ウイは刀を構えた。
レオナは後ろに下がりながらペンを動かし始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます